20150605_kohtari

 新宿歴史博物館(東京・新宿)の「作家50人の直筆原稿 雑誌『風景』より」という企画展にいってきた。

『風景』というのは紀伊国屋書店創業者の田辺茂一が来店者に無料で配布する雑誌として発行した雑誌だ。

 寄稿しているのは、川端康成、三島由紀夫、大江健三郎、松本清張、宇野千代に江藤淳……。時代を代表する面々だ。

 その作家たちの直筆原稿が見られるのだ。

 編集者とのやり取りが原稿用紙の上で覗える。

 作家たちは、自分の魂ともいえる原稿という作品を紙の上に書く。

 それに編集者が、ときには内容の矛盾を指摘したりして、その原稿に赤を入れている。作家にとっては自分の魂にメスを入れられるようなものだから、編集者は作家の作品をもしかしたら作家以上にわかっていなければいけないわけだ。

 ボクが一番気になったのは江藤淳の「評伝の愉しみ」という生原稿だ。

 ある出来事に対して「『すくえませんねと断言した。』と書かれているが『無理じゃありませんかねと答えた』というのでは筋が同じでも読んだ印象が異なる。そういうものなのだ。」と原稿の中に書かれていた。

 それぐらい言葉を選んで大切に文を作っているということだ。

 ボクもつたないもの書きだから編集者によって作品がまったく違ってしまうことがよくわかる。信頼関係と同じものを作り上げる気持ちがなければダメだ。作家の生原稿の一文字ずつが感情を持って迫ってくる。

 編集者の赤が戦っている。

 7月5日までやっているらしいから作家の魂の直筆原稿をぜひ見てほしい。

※「作家50人の直筆原稿 雑誌『風景』より」展の情報はこちらから

http://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/0221/89862/

〈プロフィール〉

神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari