「国会のやりとりをテレビで見ていて、居ても立ってもいられなくなって……。安倍首相は質問をはぐらかすような答弁しかしていないじゃないですか! でも、テレビに向かって怒っていてもしかたないので、来ちゃいました」
と、都内に住む60代女性。
炎天下、化粧崩れを気にしている場合じゃない。ハンカチでパタパタと顔をあおぎ、したたる汗を拭いながら、大勢の女性が「戦争法案ハンターイ!」と抗議の声を上げた。
自民・公明の政府与党は15日、世論の反対が強い安全保障関連法案を衆院特別委員会で強行採決した。国会前には同日深夜まで、数万人規模の国民が入れかわり立ちかわり集まった。30代の母親は3人の子連れでデモに参加した。
「子どもたちも『火垂るの墓』などのアニメを見て、戦争の悲惨さを知っています。戦争に反対している人がこれだけいるんだよ、と体感してもらいたくて連れてきました」
この国は今、政府への抗議デモによって、子どもたちに命の大切さを教えなければならないほど危うい局面にある。
衆議院で圧倒的議席を持つ安倍政権はやりたい放題。沖縄・普天間飛行場の辺野古移設問題では地元の民意を酌み取ろうとしない。政権に批判的な報道が目につくと、首相に近い自民党議員が「マスコミを懲らしめる」と発言する。そしてついに、大多数の国民にその必要性を十分に説明しないまま、数の力で安保法案を衆院本会議で可決した。法案は、与党で議席の過半数を上回る参院に送られ、たとえ審議が難航しても、60日たつと衆院再議決で成立する。
首相自ら「残念ながら、まだ国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めているからタチが悪い。
どうすれば、国民軽視の法案成立を食い止められるのか。ジャーナリストの大谷昭宏氏は「残念ながら、議会制民主主義の中では防ぎようがない」として次のように語る。
「60日ルールも憲法に定められている。憲法を守れ! と法案に反対しながら、60日ルールをけしからん! とは言えない。私たちが選挙でそれを許す議会構成にしてしまったんです。次の選挙まで、安倍首相が国民ではなく米国の顔色をうかがって強行突破したことを忘れてはいけない」
来年7月には参院選が控える。仮に野党が圧倒的多数の議席を奪うようなことになれば、首相の求心力はさらに急低下。「何でも60日ルールで成立させるわけにはいかなくなる」(大谷氏)という。
「政権交代となれば、安保法案の法的効力を失わせることができる。廃止法案を出せばいい。憲法解釈も元に戻せます。また、複数の憲法学者が法案を『違憲』と判断しています。違憲訴訟ラッシュが起きてもおかしくない」(同)
6月の沖縄全戦没者追悼式であいさつに立った安倍首相は、「帰れ!」「戦争屋は出ていけ!」とヤジられて表情をこわばらせた。デモや抗議もボディーブローになるという。
「政治家にはこたえます。特に女性に嫌われるのはキツい。女性の声は政治をひっくり返す大きな原動力になります」と大谷氏。