■みな、無理せずとも実は見守られている
4人の日常は、細かいディテールがとてもリアルです。義理人情あふれる江戸っ子ではなく、よくも悪くも野心のない東京っ子である佐知や、買い物といえば新宿に出かけ、伊勢丹デパートが大好きな鶴代の描写には、“あるある”と頷いてしまいます。また、“誰にも過剰に期待しなければ、裏切られることもない”と嘯きながらも佐知の淡い恋を応援する雪乃、ちゃっかりしているようでロクデナシな彼氏に流されそうになる多恵美には、誰もが“こういう人いる”、もしくは“これはまるで私!”と、共感するのではないでしょうか。
「キャラクターを作るうえで意識したのは、本当に嫌な人にしないこと。読者に“私の中にあるものを、この人たちも持っている”と思ってもらえたら、とても光栄です」
話が進むうちに、ファンタジー的な要素が入り交じります。超常現象が起こり、死者と生者の声が重なり合い――しかし、それすらも日常の中で吸収していく心の健全さ、強さが4人にはあります。
「超常現象までいかなくても、“あれはなんだったのかな”というようなこと、誰もが心当たりがあるのでは。でもそれを奇跡だと騒ぐ人は少数派で、“理解はできないけどまあいいか”と、日常を続けていく人が大半でしょう。それも人間の面白さだし、日常の頑強さなんだと思います」
4人が住む家は、サンクチュアリだという三浦さん。この古い洋館は、外でいろいろあったとしても、帰宅すればくつろげて安らげる場所。家庭を持たなくても、人と関わり合い助け合って生きることはできると、教えてくれる場所なのです。
「人は無理してひとりになる必要もないし、逆に、無理して誰かと一緒にいる必要もない。そして死ぬときはひとりだけど、生きているときは、必ず誰かに見守られている。だからどんなときも、実は焦らなくてもいいと伝われば、うれしいです」
世間的に見れば、未婚で彼氏もいない“残念な女”である4人ですが、その生活は実に豊か。読後感爽やかで、女性がホッとひと息つける1冊でした。
■取材後記「著者の素顔」
「たとえ結婚していても、人生では何らかの悩みが生まれるものだし、それからは逃れられない」「他人は自分のことを大して気にしていないから、やりたいことをやったほうがいい」などなど。三浦さんは取材中ずっと、ご自身の意見を小気味よく語ってくださいました。ベースにあるのが、「自分の人生、何をしてもいいじゃん、ひとりでも誰かといても、仕事してもしなくてもいいじゃん」という肯定の気持ち。いまだに思い出すたび、何だか元気になります!
(取材・文/中尾 巴 撮影/斎藤周造)
〈著者プロフィール〉
三浦しをん ●1976年生まれ。2000年『格闘する者に〇』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、2012年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。その他の著書に『秘密の花園』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『神去なあなあ日常』など。『悶絶スパイラル』『本屋さんで待ちあわせ』などエッセーも多数。