《学校に行きたくない。死にたい》
といったメールが届く。代表の橘ジュンさんはこう話す。
「学校に違和感を抱いている子は夏休みが終わりに近づくと、死にたい気持ちのカウントダウンが始まる。特に部活をしていない子の場合、いきなり学校が始まる。周囲の態度が不安だったりする」
また、若者層の心の病を防止することを目的に、家族や友人らを適切に支える術を身につけるための活動をしているNPO法人『Light Ring.(ライト・リング)』の代表理事で、精神保健福祉士の石井綾華さんは、
「この時期に自殺が起きやすい、ということを小中学校のPTAやご両親、児童生徒に関わる方々の共通認識として広めることが重要だ」と話す。
自殺対策推進室でも、
「現場の教師は夏休みの終わりの時期、児童生徒たちの変化を注意深く見て職員間で情報共有することが大切だ」
と話している。
文部科学省は8月4日、児童生徒の自殺予防に関する通知を出した。今年7月に岩手県・矢巾町の中学2年・松村亮くん(13)が自殺したが、職員間で情報共有されていなかった反省に基づく。内容はいじめの対応が中心だが、内閣府の統計を踏まえ、18歳以下の自殺が多い長期休み明けには、児童生徒への見守りを強化することを求めている。
自殺が集中する警戒期間には、何に注意すべきなのか。
文科省作成のパンフレット「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」によると、自殺直前のサインとして、「集中できなくなる」「成績が急に落ちる」「投げやりな態度が目立つ」「健康や自己管理がおろそかになる」「引きこもりがちになる」「家出や放浪をする」「自殺にとらわれ、自殺についての文章を書いたり、自殺についての絵を描いたりする」などが挙げられている。
例えば、歯磨きをしなくなったり、服装に気を遣わない、または髪の毛がボサボサになっても気にしなくなった場合、それは自殺のサインかもしれない。自分のことを大切にしなくなる傾向があるからだ。
しかし、簡単には見破りにくいことも……。
「親など他人に傷を見られることを嫌がって、自傷行為で身体を傷つけることはせず、市販の風邪薬の過剰摂取をする場合もある」(橘さん)
そのため、「長期休業の直後は、生活環境などが大きく変わり、大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすいため、組織的な対応が求められる」(同省の初等中等教育局・児童生徒課)としている。
児童生徒たちは必ずしも自殺の理由をはっきり提示するわけではない。遺書や日記など「自殺の原因・動機に関する判断資料」がない比率を見ると、15歳以上では4人に1人が資料なし。15歳まではそうした資料がない比率はもっと高い。
橘さんは「15歳以上の場合は、携帯電話の所持率が高く、SNSやブログ、メールなどに思いが残っている場合があるが、15歳未満の場合、ツールもない。誰にも言えないか、気持ちをきちんと整理できていないのではないか。問題行動があれば周囲もチェックできるが、心の問題は見えにくい」と分析する。
前出の石井さんは、法人で悩み相談を受けたときに、傾聴などのスキルを身につける「ソーシャルサポート力養成講座」などを開き、必要なときには専門機関につなぐ対処法を学ぶ場を提供している。
「児童生徒は"悩んでいることやいじめられていることを絶対に知られたくない"と、元気な自分を演じることがある。日常生活で意識的に会話をすることで前兆の有無を確かめ、相手の話したいことを存分に引き出し、傾聴を行うことでプレッシャーを和らげることが効果的だ」
子どものことが心配になったら親として直接話しかけてみるのもいい。なかなか声をかけられない場合、電話相談の情報(※以下参照)を伝えるのもいいかもしれない。
電話相談 チャイルドライン(18歳未満、日曜を除く16〜21時)TEL:0120-99-7777、24時間子供SOSダイヤル TEL:0570-0-78310、よりそいホットライン(24時間)TEL:0120-279-338
取材・文=渋井哲也(しぶい・てつや) ●1969年生まれ。長野日報の新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや生きづらさ、学校問題、自殺などを取材。著書に『学校裏サイト』(晋遊舎)、『気をつけよう!ケータイ中毒』(汐文社)、『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)や『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)など。近著に『復興なんて、してません』(共著、第三書館)