幸か不幸か、安倍首相のおかげで安全保障関連法案そのものへの関心が高まった。この時流に先駆けて、東京新聞論説兼編集委員で’92年より防衛庁取材を担当している半田滋さんが自衛隊の基礎の基礎、そして「自衛隊の実態」を紹介する
そもそも"自衛隊"って何?
制服を着用し、武器を持っている人たちの集まり。それなら警察官も同じでは? とツッコまれそうだが、治安維持が任務の警察と違って、自衛隊の役割は他国の侵略から日本の国土や国民を守ること。
ただ、憲法第9条は、戦力の保持を禁止している。そこで政府は自衛隊を日本を守るための「必要最小限の実力組織」と説明し、「合憲」と主張する。軍隊のようで軍隊ではないというわけ。
防衛費は年間約5兆円で世界第9位。円高になる前は5位から7位だったので結構な軍事大国かも。自衛隊の現員は約23万人で国家公務員としては国内最大の組織。
任務は戦争をすること?
自衛隊が発足した1954年以来、日本は侵略されていないので1度も戦ったことがない。活動は災害派遣が多く、昨年は554件も。これでも例年並み。海外では紛争があった国に平和をもたらす国連平和維持活動(PKO)に参加、津波や地震などの大規模災害には国際緊急援助隊として出動している。
まるで災害派遣隊のような自衛隊は、武力行使をしない「特殊な軍事組織」として定着してきたが、安倍晋三政権は、他国への攻撃が日本の危機にもあたると時の政権が判断すれば、自衛隊が海外で武力行使できるようにする法整備を進めている。
自衛官になるには?
簡単なのは、まず陸自で2年間、海自・空自で3年間の自衛官候補生(任期制隊員)になること。正式に就職するにはこの任期制隊員のときに試験を受けるか、最初から試験を受けて一般曹候補制になったり、エリートコースの防衛大学校に入学する。いずれも日本国籍を有する18歳以上が条件で、27歳未満まで受験資格がある。
任期制隊員も試験があり、倍率は平成25年度で男性は3・45倍、女性は6・02倍と高いが、社会の経済状況で倍率は変化。景気がよいときは民間の求人倍率が高いので募集担当者は隊員集めに苦労する。
自衛官と自衛隊員はどこが違うの?
防衛省・自衛隊の組織にいる人は全員、自衛隊員。その中でも制服を着て、階級を持つ人が自衛官。自衛官ではない自衛隊員は、事務官、技官などで、戦闘に参加することはない。
自衛官の階級は上から順に将官、佐官、尉官、曹、士。軍隊ではないので階級の呼び方は他国軍が大佐の場合、自衛隊は一佐、中佐は二佐、少佐は三佐と番号で階級を現し、軍隊色を薄めている。
自衛官の給料は高い?
いちばん給料が安い任期制隊員を陸自の例でみると、給与・賞与などのほか、退職手当が支給され、任期2年間で合計580万円もらえる。2任期(4年間)なら退職手当がぐっとアップして1336万円。これを4年間で割ると年間約334万円の収入となり、働く人の4人に1人といわれる年収200万円以下のワーキングプアと比べてはるかに高い。
しかも自衛隊の場合、衣食住は国が提供してくれるので、給料、ボーナスは自由に使えることになる。安全保障関連法案が国会で審議される中、徴兵制も話題になっているが、無理やり集めなくても格差社会になればなるほど自衛官は恵まれた職業に映る仕組み。
定年が早いらしい?
自衛隊は精強さを保つため、若年定年制を採用している。退職年齢は曹・准尉・幹部(佐官・尉官)の順で54歳から56歳。まだまだ働ける年齢のため、自衛隊では再就職先をあっせんする援護と呼ばれる専門の部署がある。再就職先は警備会社、建設会社などさまざま。だが、年収は自衛官だったころと比べ、激減する。
一般企業と同じ60歳で定年を迎える将官は、防衛費で武器を買う相手の防衛産業や自衛官23万人が利用する銀行、損保などに「天下り」し、年収は現役時の7〜8割が保証される。現役の将官は年収1500万円を超えるので天下り後も年収は1000万円以上。階級の違いは生涯乗り越えられない。
監修:半田滋(はんだ・しげる) ●東京新聞論説兼編集委員。’92年より防衛庁取材を担当している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。