すべての団塊世代が後期高齢者となる2025年、介護難民43万人が発生。民間の有識者団体『日本創成会議』が発表した試算は衝撃を与えた。すでに介護施設の入所には長蛇の列。厚生労働省の最新調査では、2013年度の特別養護老人ホームの入所待機者は52万4000人に達している。加えて8月から介護保険法の改正にともない、特養への入所条件が要介護3以上に引き上げられた。さらなる“難民発生”は避けられない見通しだ。

20151006 ikijigoku (33)

予算の削減ありきで誤った社会保障政策が進められた結果、さまざまな問題が噴出しています

 そう話すのはNPO法人『医療制度研究会』副理事長の本田宏医師。憤りを隠さずにこう続ける。

「厚労省は長期入院の患者を受け入れる療養病床、精神科病床の削減を打ち出しています。退院後の引き取り手がいないために長期療養している状態、いわゆる『社会的入院』を減らすことが目的ですが、中には認知症の患者も多く含まれています

 核家族化が進んで共働きの家庭も多くなり、若い人たちは非正規労働者が増えメシも食えないという状況。退院後の受け皿などとうてい望めません

 予算削減の背景には、少子高齢化による社会保障費の逼迫(ひっぱく)があるといわれている。だが、人口問題は突然発生するわけではない。1970年代の国勢調査からその兆候は見て取れる。

「人口統計を見れば、高齢化は最初から予測がついていたこと。ところが官僚たちは今になって大変だと驚いたフリをしている。まずいことになるとわかっていながら、対策も責任も取ろうとしてこなかった」

「医師を減らせば医療費も減らせるという考え」

 医師不足も同様だ。人口比で医師が少ない自治体を都道府県順に並べると、1位の埼玉を筆頭にワースト5はすべて東日本(2位から順番に茨城県、千葉県、福島県、静岡県)。全国最多の医師数を誇る徳島に比べ、実に2倍以上もの開きがある。

「大学の医学部が少ない地域ほど医師不足の傾向にあります。ただ、それ以前に医師の絶対数が足りない。日本の医師数は、欧米をはじめ世界34か国が加盟する経済開発協力機構の平均以下。10万~15万人は足りません。しかも医師数をカウントするにあたり、週1回しか勤務しない医師でも1人に計上しています。つまり実数はもっと少ないのです」

 そんな中、厚労省は医学部の定員削減を検討。将来の医師数が都市部で過剰になるおそれを理由に挙げる。関東の場合、都市部こそ医師が足りないのだが「医師を減らせば医療費も減らせるという考えなのでしょう」。

 誰もが必要なときに必要な治療を受けられる。日本の医療が長く掲げてきたこのモットーは、いまや機能していない。とりわけ高齢者への影響は大きい。

高齢者の手術は手間ひまがかかり、術後も合併症が起きやすく、1歩間違えると死につながりやすい。手術がうまくいっても“元気になるまで病院に置いてくれ”“手術したのは先生だから責任をとって”と言い出す家族は珍しくない

 その結果、最近では患者側から際限のない要求を出されるリスクを勘案して、医師たちが手術を躊躇(ちゅうちょ)する“萎縮医療”に陥りやすくなっているという。

手術しても、土日も休まないで診続けなければならない医師も大変、介護者のあてのない家族も大変。施設にもなかなか入れない。行き場のないお年寄りだけが取り残されてしまうわけです。このままでは事態はますます悪化します。それを避けたいなら、選挙では医療や介護といった社会保障政策を重視する候補者を選んで、政治から根本的に変えていくしかありません」