「子どもというのは、そのときに褒められないとピンと来ないものです。しばらくして、“あのときのここがよかったよ”と言っても、肝心の子どもが理解していなければ伸びるものも伸びません。
スポーツに限った話ではなく、テストでよい点数を取ったときや、部屋で楽器を演奏していたり、工作をしていたり、“いいぞ!”と感じたときは、すぐに伝えてあげること。
瞬間瞬間で褒められることで、子どもはすぐに理解して、喜んでもらおうと必死に努力します。子どもは大人と違い、得や欲よりも、うれしい、楽しい、といった感情を優先することを忘れないでください。
聖子の場合、練習中に褒めると、帰宅途中に“パパ、どこがよかったの?”と何度も聞いてきました。私は最初に褒めたときと同様に何度も褒めるようにしていました。“さっき言ったでしょ”ではなくて、何度でも褒めてあげた。子どもたちにとっては、それが何よりのやる気や充実感につながるのだと思います」
■別のスポーツに転向させたほうが花開く場合もある
感じた瞬間に子どもに伝える。それは悪い部分を指摘するときも一緒。山本さんは、自身が長年、見続けてきた教育現場にも提言をする。
「義務教育の中で、優れた指導者に出会えるとは限らないので、こういった側面を踏まえても、いろいろなことにトライさせることは無駄ではないと思います。
よい指導者というのは、その子が持っている才能を埋もれさせるようなことはしません。レスリングに通っている子で、なかなか結果が出ない子がいたとしましょう。才能はもちろん、その子の身長や体重を鑑みたとき、別のスポーツに転向させたほうが花開く場合もあると思えれば、真剣にその子と話し合う。そういう関係性が築ける指導者に巡りあえるかどうかもポイントです」
高校までバスケットボールや剣道に打ち込み、大学入学後はレスリングへ転向。その後、オリンピック代表にまで上りつめた山本さんだからこそ説得力がある。
また、大人になったら、子どもにあれこれ指図はしない。親も子離れをしなくてはいけない、とも。
「私には、今でも子どもたちや孫のアーセンから相談のメールが来ますが、指導方法などにはアドバイスをするけど、プライベートなことには“それは自分で決めなさい”と答えています。でも“どう決めてもパパは何も口出さないよ”とも添えますけどね」
しかし最後に、冒頭のお孫さんに対して、こんな本音が。
「でも、どういう道を歩むにせよ、褒めて褒めて伸ばすおじいちゃんになってしまうだろうね(笑い)」
(取材・文/我妻アヅ子)
〈プロフィール〉
やまもと・いくえい ●1945年愛知県生まれ。日本体育大学に入学と同時にレスリングを始め、1972年ミュンヘンオリンピックの日本代表となる。現在は、世界で活躍するアスリートやオリンピック選手を育成する競技者塾「GENスポーツ・アカデミー」(http://gsa.asia/)総監督を務めるなど多岐にわたり活躍。