受診時のメモや、『ゆっくりでいい。』と題されたブログから、美幸さんはうつ症状が悪化していたともみなされたが、いじめと自殺との因果関係は否定された。
両親は報告書を読み、事実誤認を指摘する。報告書には養護教諭の見解として「“中学時の少しやせた時期があり、うれしくなったため、それからあまり食べないようにした”と話しており、中学時より摂食障害となる素地はあった」とある。
でも佳苗さんによれば、美幸さんが摂食障害とわかったのは高校1年の夏であり、
「高校受験前、私と美幸で牡蠣を食べ、下痢をして“おなかがぺったんこになった”と喜んだことがありました。やせることのエピソードはこのときとインフルエンザでやせたときだけ」とも。
報告書には'14年4月ごろ、「自室でスカートの紐を首にかけたのを母親発見」ともある。自殺企図が以前からあったように思わせるが、それについても佳苗さんは反論する。
「ハンガーにスカートの紐がぶら下がっているのを見つけました。美幸に問いただしたら、“本気で死ぬ気はないんだけどね。ギュッとやれば楽かな…って”と言っていました。県教委に指摘しましたが、“1度できたもの(報告書)は変えられない”と言われました」
これらの「報告書」の内容に遺族は納得できず県知事に申し立て、『県青少年健全育成審議会いじめ調査部会』が再調査することになった。
最初の「調査」ではいじめの「悪質性」が問われたが、「再調査」では「いじめの行為の質」の評価はしなかった。いじめを受けた生徒の立場に立つことが理由だ。その結果、「出来事」が11個に整理され、8個が「いじめ」と認定された。摂食障害も「高校入学後」とされた。
結論として、いじめは自殺の直接原因とは言えないとしながらも、「一定の因果関係があったと推察できる」とした。
剛志さんは「再調査」について、「いじめと摂食障害や自殺の因果関係はあったと認められました。最初の報告書よりはよかった」と評価した。
しかし美幸さんが帰ってくるわけではない。「再調査」ではいじめとの関連が指摘されたものの、摂食障害は母娘関係を指摘する文献が多く、佳苗さんは「自信があって育ててきたわけではないです」と涙ぐむ。
両親は、学校側のほか、LINEグループ内で悪口を言っていた生徒たちやその保護者からの謝罪を求めてきたが、いまだにどこからもないという。青森県教委学校教育課は週刊女性の取材に、
「遺族の話を十分に聞いて対応してきました。(県の部会での再調査とは内容や評価は違うが)それぞれが独立した組織で、法的にどちらが優位というのはありません。報告書の内容を受け止め、いじめ防止対策には取り組みます」
今年度は同高校の校長も教頭も代わった。3月1日は美幸さんの学年の卒業式。卒業生番号は入らないが、卒業証書はもらえることになり、両親は出席する。
取材・文/ジャーナリスト・渋井哲也