2015年の訪日外国人観光客数は1973万7000人と過去最高を記録! 小売店をはじめ、観光バス業界、ホテル業界などがうれしい悲鳴をあげる一方、「うるさい」「マナーが悪い」など困惑の声も……。
爆買いを楽しむ中国人の姿も見慣れたものになってきたけれど、2020年東京五輪に向けて、まだまだ増え続ける外国人観光客と私たちはどう向き合っていけばいいのだろうか。笑顔で“おもてなし”をするために知っておきたい日本の“宿題”とは?
「“信じられない!”“写真撮ってもいいですか!?”と外国人が必ず歓声を上げるのは、真っ赤なワーゲンが置いてある部屋ですね」
そう誇らしげに語るのは、大阪市内にあるラブホテル『パブリックジャム』を運営する梶川浅和さん。
オーストラリア、スウェーデン、韓国、ベトナム、インドネシアなどさまざまな国からの観光客が“宿泊”で同ホテルを利用するようになったのは、半年ほど前のこと。いったいなぜ、急に外国人観光客の呼び込みに成功したのか。
「昨年10月まで、風俗営業法に基づくラブホテルとして営業していました。でも、お客様は年々減少していて……。そこで昨年秋に、旅館業法上の“旅館”として登録をし直したんです。おかげで、海外の旅行客もチェックする宿泊予約サイト3社と契約できました。今は、休憩で利用する従来のお客様と、宿泊客が混在している状態ですね」
これまで、一般向けの宿泊予約サイトにラブホテルの情報を掲載することはできなかった。だが、ラブホテルとしての用途を残していても、旅館業法の管轄にすることで、一部のサイトから許可が下りるようになったのだという。
この大胆な方針転換に、最初は戸惑っていた同ホテル従業員の女性もこう話した。
「言葉の壁があるので、動画通訳機器を使って外国人客の対応をしています。部屋の清掃とセッティングが少し複雑になりましたね。宿泊客の部屋には避妊具やアダルトグッズのカタログは置かず、子連れのファミリー客なら、アダルト動画も一切見られないように設定する配慮をしています」
ラブホテルを珍しがって利用する外国人観光客もいるが、なかにはよく知らずに予約する客もいるそう。
「“景色が見えない。なぜ窓がないのか?”とクレームが入ることがありますね。先日はフランス人の老夫婦が“車や船が室内にあると落ち着かないから、普通の部屋に変えてくれないか”と困惑されていました(苦笑)」
同ホテルは全17室だが、サイト経由の宿泊客は10件までに制限。従来のラブホテルの利用客が離れてしまわないように調整をしながら、様子を見ているという。
「最近は、出張で利用する日本人のサラリーマンのお客様も増えてきました。ビジネスホテルより、部屋も風呂も広いですから、今後は旅行や出張など、用途を問わず利用してもらえるホテルに生まれ変われたらいいなと思っています」
同じ大阪市内のラブホテルには、中国系旅行会社と契約し、中国人団体客の受け入れ専用ホテルにしてしまったところもあるとか。
ホテル業界の動向に詳しい、ホテル評論家の瀧澤信秋さんはこう指摘する。
「ラブホテル業界全体で、外国人だけでなく、日本人のサラリーマンなど一般の宿泊客のニーズを取り込む動きがあります。価格も変動せず、設備も豪華なラブホテルは、今後、新たな価値を広げていくんじゃないでしょうか」