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 強面の外見とは対照的な、面白トークのかわいらしいキャラクターの石倉三郎。これまで、名脇役として作品に彩りを添えてきた彼が、映画『つむぐもの』でついに映画“初”主演を果たした。

「たまたま、主役だったということだけ。持ち回りの順番が来たのかなっていう。ことさら、“うぉーっ”とか“うれしい”とかは思わなかった。粛々と参加した感じだね」

 映画『つむぐもの』で、“初”主演を飾った気持ちは? と聞くと、意外にもこう答えてくれた。

「台本を読んだとき、渋い本だけど、面白いと思いました。でも、介護のような社会派なものを題材にした映画は当たらないんじゃないの? っていうのはあった。それが、先日、完成披露試写会をやって、作る意味があったって、本当にそう思いましたね」

 会場を感動と涙で包んだ今作で石倉が演じたのは、妻に先立たれてひとり暮らす、頑固な越前和紙職人の剛生。

 脳腫瘍で手足が不自由になった剛生は、無職になったことをきっかけに韓国からワーキングホリデーで福井にやって来た女性・ヨナから在宅介護を受けることになる。

「韓国の女の子と、日本の頑固者。言葉も通じなくて、お互いに“なんでこんなことになるんだ、冗談じゃない”って思っているふたりが、介護する側、される側になる。だから、余計に劇的だと思う」

 外国から来た女性の目線で見る、日本の介護の現状。そして、ぶつかり合いながらも次第に心を通わせていくふたり。ヨナを演じたキム・コッピは、本国でも高く評価される実力派女優。映画の設定同様、ふたりには言葉の壁が。

「クランクイン前に、監督と3人で2日ほどかけて読み合わせして、ほとんど意思の疎通は図れた気がしましたね。本当にすごい子で、この映画は彼女の力によるところが大きいですよ」

 2週間という短い撮影期間は、ほぼ現場とホテルの行き来で終わったそう。タイトなスケジュールの中、1度だけ、ふたりそろって空き時間ができたときには、監督に内緒でビールを飲みに行った。

「彼女にジェスチャーで“ビール飲もう”って伝えて、こっそり抜け出したの。結局、監督に見つかっちゃって。そしたら“僕、見なかったことにします”って(笑い)。あのビールは、うまかったな~。お互いに寄せ集めの言葉で会話してね。あの悪だくみで、さらにグッと距離が縮まった」

 映画の中でいちばん好きなシーンも、剛生とヨナが腹を割って日本酒とマッコリを飲む場面だという。

「ほのぼのとしたいいシーン。でもあれ、水とマッコリだから(笑い)。昔、東映の大部屋にいたころは本物だったからね。今でこそ、ビールに見えるものを使っているけど、そんなものなかった時代だから全部、本物。NGが出るたびに飲めるでしょ、だから誰かNG出さないかなって(笑い)」

 茶目っ気たっぷりに語ってくれる石倉と、腕はいいが人を寄せつけない剛生とでは、ずいぶんと印象が違う。

「融通のきかなさは、剛生と似ているんでしょうね。メリハリのきいた生き方ができない。ダメですよね。でも、剛生ほど頑固じゃないですよ。それに、あれくらい誇れるような仕事もしていませんから」

撮影/坂本利幸