もうすぐ入学・進級シーズン。小中学生の子どもの教育費が家計を圧迫する……とお悩みの保護者に知ってほしいのが「就学援助制度」だ。わかりにくいこの制度をもっと多くの人に活用してもらいたいと呼びかける元学校事務職員がいる。
「生活保護基準とほぼ同じじゃないと受給できないという誤ったイメージを持たれがちで、はなから申請をあきらめてしまう人もいます。でも僕のいた東京都板橋区でお話しするなら4人世帯で所得400万円ならほぼ通ります。お子さん1人当たり年間10万円以上が支給されるので、すごい額のサポートになります」
東京都北区で『まちかど事務室』を主宰する村木栄一さん(63)は、就学援助制度についてそう話す。
就学援助制度とは、一定の所得基準を下回る世帯の小中学生について、入学準備金や給食費、修学旅行費、学用品費など教育費の一部を、市町村が主として援助するものだ。
所得基準は自治体ごとに異なるが、生活保護基準の1.3倍以下というところが多く、生活保護と違って資産調査はない。
村木さんは38年間、板橋区の小中学校で学校事務職員として働いた。一般にはなじみが薄い職種だが、基本的には1校1人で教材費や教職員の給与などのお金の管理を取り扱う、いわば学校財政の担い手だ。
保護者の経済状況をキャッチできるので「子どもの貧困」に気づきやすい立場ともいえる。
例えば、給食費を滞納するほど経済的に困っている家庭でも、就学援助を受けていないことがしばしばあり、積極的にこの制度を紹介してきたという。
「制度がきちんと知られれば、利用する人は今の倍以上に増えるはずです。ところが自治体としては財政負担になるので、熱心に周知しない。認定基準の切り下げも各地で起こっています。子どもの学習権を守る大事な制度なんだという認識を広げないと、いつ崩壊するかわかりません」
文部科学省によると、全国の就学援助対象人数は約151万人(2013年度)。公立小中学校に通う子どものおよそ6・5人に1人が利用していることになる。ただ、これでも必要とする子どもたちに制度が行き届いているとは言えない。
例えば、今年1月末に発表された沖縄県の調査では、小中学生のいる世帯の貧困層の割合はどの学年もほぼ30%だったのに対し、就学援助を利用していると回答した割合は13~19%にとどまった。就学援助は貧困層より所得が高い人もカバーする制度であるにもかかわらず、だ。
村木さんは「多くの自治体が保護者に伝える努力をしていない」と指摘する。
「自治体の広報紙で案内しているケースがよくありますが、忙しいお母さんほど広報紙なんか読まないじゃないですか。さらに学校でお知らせのプリントが配られる自治体でも、所得基準や援助内容といった必要な情報が書かれていなかったり、お役所言葉で読み解きづらかったりするところもたくさんあります」
村木さんによると、支援の手からこぼれ落ちていないか特に心配なのが、ひとり親家庭と外国人保護者の家庭だという。
18歳未満の子どもがいるひとり親家庭の貧困率は、54.6%にのぼる(2012年、厚生労働省調べ)。つまり、本来なら就学援助を受けられる家庭が大半なのだ。
「最後の勤務校で、40代のシングルマザーが3人、立て続けにがんで亡くなりました。子ども優先でご自身の健康が後回しになり、ダブルワーク、トリプルワークが当たり前です。
それだけ生活に追われるなかで、仮に就学援助のプリントが配られても、ひと目で重要だとわかるものでなければ、学校から毎日のように来る文書の中で埋もれてしまうでしょう。必要があれば請求してください、というやり方では届かないんです」
取材・文/フリーライター・秋山千佳