■リニアのルートと交差する日本最長の断層

 また天野さんが疑問に思うのは「リニアは地震に強いのか」ということだ。

 調べてみると、'11年4月14日に国土交通省での有識者による『鉄道部会・中央新幹線小委員会』でのリニアの耐震議論は劣悪だった。審議時間わずか15分。リニアは、側壁と車体との間で、電磁力の互いに引き合う力・反発する力の作用で浮上と推進をする。地震時も、その磁力バネの特性で車体は側壁に衝突しない……との理由で、耐震性にお墨つきを与えていた。

「リニアが通過する南アルプスはふだんでも地滑りを起こし、地震で大崩壊する可能性がある。東日本大震災の翌月の議論とは思えません」(天野さん)

 ちなみに、4月の熊本地震の震源は日本最長の断層『中央構造線』だが、この断層は長野県にまで及び、リニアのルートと交差する。天野さんは「熊本の断層地震を教訓とし、リニア計画を見直すべき」と主張する。

■ウラン被ばくに電磁波のリスクも

 岐阜県で恐れられているのは、リニア工事でウランが掘り出されないかである。

 ウランは、原子が崩壊しながらいろいろな放射性物質に姿を変えるが、危険なのは、肺がんを引き起こす気体の放射性物質ラドンだ。実際に1960年代、岡山県と鳥取県にまたがる人形峠でのウラン採掘では多くの労働者が亡くなった。

 岐阜県東濃地区は日本最大のウラン鉱床地帯だ。リニアはその地下を走る。そこにウランはないのか。この不安から2月16日、市民団体『春日井リニアを問う会』の川本正彦代表が現地で放射線測定を実施した。

 まず向かったのはリニアルートの“品川駅から245キロ地点”。ここで放射線測定器をセットすると、その最高値に参加者は「おおっ」と声を上げた。毎時0.341マイクロシーベルト。

 全国平均の約8倍だ。さらに驚いたのが、同地点の3~4キロ南、過去にウラン採掘を行った月吉鉱床の数地点で測定したら、値がいずれも0.3マイクロシーベルト以下だった。リニアルートのほうが高い。

「JR東海は、リニアルートはウラン鉱床を回避していると明言します。根拠は、『動力炉・核燃料開発事業団』(現・日本原子力研究開発機構。以下、機構)が'88年に出した『日本のウラン資源』という文献だけ。今回の結果は私たちの不安を裏づけました」

 私は、東濃地区でボーリング調査を行っていた機構の一組織、東濃地科学センター(岐阜県瑞浪市)に、東濃でのウランの存在はすべて把握しているかと尋ねたことがある。以下の回答を得た。

「地下がどんな地層かは掘ってみなければわかりません」

 トンネル工事で防護マスクの隙間からラドンを吸い込む作業員が数年後に肺がんを発病。排出されたウラン残土からは降雨のたびにウランが周辺土壌に拡散。この最悪のシミュレーションは非現実的だろうか。

■膨大な残土を運ぶダンプカーが1分間に3台ペースで10年間も走り回る

 リニアは、'97年から操業している山梨県のリニア実験線(42.8キロ)が営業本線も兼ねるため、実質的に7分の1は完成している。この実験線は、さまざまな問題を引き起こしてきた。

 実験線でも8割以上が地下トンネルだが、トンネル工事は各地の地下水脈を断ち切り、集落の簡易水道の水源である沢や川を枯らした。

 例えば上野原市の“棚の入沢”は、かつてはヤマメやイワナの宝庫だったが、今は1滴の水も流れない草原と化した。また、トンネル工事で排出された残土は大きな谷を埋め立てた。

 問題は、今後の工事で約5700万立方メートルという東京ドーム約50個分もの膨大な残土が排出されるが、それだけの残土を運ぶためのダンプカーが都会でも集落でも朝から晩まで10年間も走り回ることだ。

 特に長野県大鹿村では1日最大1736台もの工事用車両が村を走ると予測されている。1分間に3台ペースの車列からは排気ガス、泥はね、土ぼこり、騒音、振動が絶えず、母親たちは子どもの交通事故を心配する。

 だが、JR東海は「騒音予測は69デシベル。基準の70デシベルを下回っています」と回答。これに憤る住民は少なくない。