■要介護1・2の介護保険はずしが現実に
税金逃れのためにタックスヘイブンを利用する大企業や資産家に課税する動きはなく、弱い者にしわ寄せがいく。その兆候は、これまで安倍政権下で行われてきた社会保障政策からも見て取れるという。
鹿児島大学法科大学院の伊藤周平教授(社会保障法)が指摘する。
「安倍政権になって、まず生活保護の基準額と年金を引き下げ、児童扶養手当も下げました。ひと言でいえば、弱い者いじめです。
高齢化が進むと、何もしなくても年金や医療にかかる経費が増えます。これを社会保障費の自然増と言いますが、毎年8000億円から1兆円かかります。この部分を安倍政権は毎年、2000億円ずつ削減していきました。介護報酬も大幅に引き下げ、今年は診療報酬を下げています」
社会保障の大半を占める医療費の効率化を現政権はずっと進めている、と話すのは前出・田中さんだ。
「平成26年と平成27年の診療報酬改定によって、病院は、患者がちょっとでもよくなったら在宅へ戻すようになった。重い療養が必要なまま家に戻るわけですから、訪問看護や訪問診療を使っていても家族の負担は増えます。ただでさえ、低賃金で人手不足なヘルパーさんの負担も同様です」
病人や社会的弱者に対して安倍政権の政策はやさしくない。消費増税延期によって「社会保障の充実のすべてを行うことはできない。優先順位をつけながら可能な限り努力する」と明言した安倍首相。その真意を田中さんはこう読み解く。
「“すべて行うことはできない”というのは“やりません”ということかもしれない。財務省は歳出削減のお墨つきをもらったと考え、社会保障はどんどん抑制のほうに働くでしょうね」
割を食うのは私たちだ。
「介護だけなら、ボロボロになりながらも家族が看るかもしれない。そこに育児が絡む“ダブルケア”になったら、もうアウトです。自民党公約の“介護離職ゼロ”を実現させるには、同一労働同一賃金とか、非正規雇用であっても介護休暇が取れるような環境づくりがまず重要。つまり経済構造や働き方から変えていかなければいけません」
伊藤教授も、医療と介護へのしわ寄せを危惧する。
「高齢者の高額療養費の窓口負担が、現在のおよそ月額4万円から8万円ほどに引き上げられる。湿布や風邪薬など市販薬でも売っているものは、患者の全額負担にする。入院時の食費、居住費も、患者の預貯金を調べて取るようになります。
介護はもっとひどくて、要介護1・2の人を介護保険の生活援助サービスからはずす。住宅改修、福祉用具のレンタル代が全額自己負担になります」
こうした自己負担増、介護保険の給付抑制は、すでに安倍内閣の『経済財政諮問会議』で参院選後の実施が検討されているという。