ゆるやかな洗脳
いつだってそうだ。学校の先生は『お金』の話をしてくれない。してくれないわけじゃなくて、「できない」と表現したほうがいいかもしれない。
こんなことを書いちゃうとバチクソに怒られるけど、“ほとんどの先生”は社会経験がない。
もっとシビアなことを言うと、アートの大学の場合、アート作家として飯が食えない人が先生になっているケースが多い。
だから先生が話すのは、いつだって『夢』の話で、次第に『お金』の話をすることが、なんだか下品なことのように扱われて、ゆるやかに洗脳され、ついには「今、夢の話をしているんだから、お金の話なんかするなよ!」と切り離される。
切り離して、夢の話だけを続けた結果が、アート大学卒業後の「作品を作りたくて、作る技術はあるんだけど、作るのに必要なお金が……」に繋がるわけだ。
いやいや、テメエの手で切り捨てたのだ。
でも、この気持ちはとてもよく分かる。
なんてったって、僕自身が“お金のことはいいから、夢を追いかけようぜ教育”のモーレツな被害者だから。
やっぱりお金の話は下品だと思っていたし、だからお金をなるべく遠ざけて生きて、気がつけば、お金に興味がなくなっていた。
「ウソでしょ?」と言われるんだけど、いやいやホントの話で、僕は今でも自分の給料を知らない。
収入の増減に一喜一憂するのが嫌で、デビュー当時から給料も給料明細も実家に送ってもらっていて、母の判断で「おそらく、今月使うであろう分」だけを僕の銀行口座に振り込んでもらっていたのだ。震えるほどのマザコンである。
19歳の頃から、ずっとそうで、いつしか、給料の一部だけが僕の口座に振り込まれている“実家経由システム”をすっかり忘れてしまい、コンビニATMで残高を見て「ああ、今月の給料は、これぐらいなのね」といった無頓着ぶり。
子供の頃から、「夢だけを追うことが素晴らしい」と育てられたから、こうなった。
そんな中、東日本大震災が起きて、日本中が沈んでいる時に、同じように僕も沈んでいたんだけれど、天災に気分を振り回されていることにだんだん腹が立ってきて、「今、何をすれば震災があったことがプラスになるだろう?」と考え、「そういえば、今、家、全然売れてねーんじゃねえの? 買うなら今でしょ」という気持ちになった。
しかし銀行の残高が20万円しかなかったので、「母ちゃん。俺、家を買いたいんだけど、貯金が20万円しかなくて……」と相談したら、「何言ってんのアンタ。19歳の時からの貯金があるじゃない」「え?そうなん?」といった調子で、家を買った。これマジで。
それぐらい、お金と距離をとっていたのだ。
しかし、好きなコトで生きていこうと考えて、「面白い」を追求する人ほど、お金と真摯に向き合うべきだ。
というのも、お金とキチンと向き合い、お金の正体を把握することで、「面白い」の選択肢が増えるから。
僕自身、ある時から「お金の正体」について真剣に考えるようになり、そこから一気に選択肢が増え、可能性が広がった。
《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。
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