今年6月、大阪大学の松林哲也准教授(政治学・公衆衛生学)らの研究グループが衝撃データを発表した。誕生日に自殺する人は、ほかの日の1.5倍というのだ。
1974年から2014年の人口動態調査をもとに、自殺や事故で死亡した約207万人のデータを分析した結果が、下のグラフ。誕生日当日だけが、ぐんと飛びぬけている。誕生日当日の死亡者は約8000人。ほかの日の平均値は約5700人だったことから、誕生日に死亡する人が大幅に多いことが判明した。
「このデータは自殺だけでなく交通事故死、溺死、転落死などの死亡者数も含まれています。突出した増加は、1年のうちで誕生日当日だけ。性別、年齢、婚姻状態についての差は特に見られませんでした。われわれも正直、非常に驚きました」(松林准教授、以下同)
誕生日に死亡リスクが大幅に高まる原因とその背景を、松林准教授はこう推測する。
「誕生日を祝うために、イレギュラーな行動を取るからだと考えられます。例えば、若者だったら友達と普段は行かない海や川に行き、そこで飲酒した結果、溺れてしまう……などは推測できます。高齢者も還暦や古希、喜寿などのお祝いで、やはりいつもとは違うところに出かけることも推測できます。やはり外出をしたり変わったことをすれば、(しないよりは)リスクが高まります」
このデータをさらに分析したところ、誕生日の影響が強く見られる死因は自殺だと判明した。その数、なんとほかの日に比べて1.5倍!
「そもそも欧米では、記念日を期待どおりに過ごせなかったとき、孤独感などの心的ストレスが増えて自殺が増加する“バースデーブルー”という仮説があります。今回の研究で、日本人にも同じことが言えそうだ、と考えられます」
今までは、経済上や健康上の問題を抱えているなど自殺リスクの高い人がいたとしても、“いつ実行に移されるのか”を予想するのはとても難しかった。
「ところが、われわれのこの研究に基づくと、誕生日がひとつのシグナルであるわけです。自殺リスクのある方の実行を防止するには、誕生日に注目することです。誕生日には家族や友人、医療関係者、福祉関係者は普段以上の、より特別なサポートをすることで、自殺防止に非常に大きな意味を持つと思います」