「新たな誹謗中傷が起こるかも」
'15年12月。遺族は、市と「加害生徒」7人に対し、事実関係の究明と責任の所在の確認を求める民事調停を仙台簡裁に申し立てた。遺族側は「市はAの自殺の危険性を十分予測できたのに適切な措置を取らなかった。加害生徒からは今も謝罪がない。調停で責任の所在を明らかにしたい」と主張。
だが、今年2月に始まった調停は6月まで3回の審理を重ねたが7人はいじめを否定、調停は不成立となる。遺族は6月30日、市、そして8人の生徒に対して約5500万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
ここで疑問を覚えた。調査の対象生徒は11人。7人対象の調停では4人は無関係と認識された? 龍太君は対象外の4人に入っていたが、愛子さんも「理由はわかりません」。また民事訴訟で7人が8人に増えた。これはなぜか?
私はこの疑問を遺族代理人である弁護士事務所にメールで問い合わせた。後日回答すると返信されたが結局、回答はなかった。そして数日後、8人目が龍太君であることを知り驚く。愛子さんに連絡すると落ち込んでいた。
「あだ名を言ったことが裁判ざたになるとは。裁判に関われば当事者として見解表明できます。でも、新たな誹謗中傷が起こるかもしれません」
10月3日、第1回口頭弁論が仙台地裁で始まった。被告側弁護士たちは、いじめの事実を否認した。
これを機にネットの誹謗中傷は加速するかもしれない。「高校受験など無理だ」「死んでください」……。心ない書き込みはザラにある。
「一時期はマスコミも押し寄せ、私も子どもも外出できませんでした」(ある関係生徒の母)
保護者も生徒も疲れ切っている。龍太君の弁護士は「この内容なら負けない」と予測するが、無罪の場合、そぎ取られた少年らしい時間は誰が返すのか。「冤罪」の場合、メディアはどう落とし前をつけるのか。
もちろん、子どもを亡くした遺族がいちばん悲しい。A君が深い傷を負った行為に対しては審議を尽くすべきだ。ただ少なくとも、冤罪を生まない裁判であれと願うばかりである。
<プロフィール>
取材・文/樫田秀樹 ジャーナリスト。1959年、北海道生まれ。'89年より執筆活動を開始。国内外の社会問題についての取材を精力的に続けている。近著に『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)