“駅間の長さ"は痴漢被害の原因なのか
「埼京線で痴漢被害が多い」理由として、「駅と駅の間が長い」ためと解説する人も多い。たしかに、密閉した状態が長く続けば、それだけ痴漢被害も増えそうである。
実際、埼京線の駅間距離は長い。都心部の赤羽~大崎では、駅間距離が平均2.7キロもある。山手線の駅間距離が平均1.2キロなので、その2倍以上だ。埼京線と同様に痴漢被害が多い中央線も、東京~中野(中央線快速線)の駅間距離は平均2.9キロにもなる。
しかし、この話はおかしい。
駅間距離が短い山手線も、「痴漢被害の多い路線」にランクインしているし、横須賀線は、埼京線や中央線よりも駅間距離が長く、混雑率も193%(武蔵小杉→西大井)と高いが、ランクインしないのだ。
駅間距離と痴漢被害には、相関関係が見いだせない。
一方で、混雑する路線のすべてがランクインするわけではないが、ランクインする路線には、激しく混雑する箇所が必ずある。
上野東京ラインの開業で山手線の混雑は大幅に改善したが、それ以前は、「上野→御徒町」の混雑率が200%前後で、都内でも最悪の混雑区間だった。京王線や西武線は、混雑率は比較的低いのだが、各停が数字を押し下げているだけで、特急や急行では猛烈な混雑となる。
“混雑”は痴漢被害を招く最大の要因だが、それは統計上の話で、思わぬところでも事件は起きている。
2016年10月7日、尼崎駅のホームで電車待ちをしていた女性が、警察官の男に尻を触られるという痴漢事件が起きた。この男は、別の痴漢事件で容疑者として浮かび上がり、捜査員に目をつけられていたようだ。
警察官がホーム上で痴漢をするようでは、完全な痴漢対策などありえない。
それでも、混雑は避ければ、痴漢被害に遭う確率は確実に下がる。心許ないのは承知だが、これが冒頭の女性編集者に捧げるアドバイスである。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。