思い込みでとんでもない事故が起きている
治療・処置に関する事故では、患者の取り違えや手術部位を左右で間違えるなどのケースも含まれる。
昨年末、千葉県がんセンターでは早期乳がんのAさん(30代)と、進行性乳がんのBさん(50代)の検体を取り違えた。結果、すぐに手術する必要はなかったAさんの右乳房をすべて切除するミスを起こしている。
「心臓の悪い患者と、肺の悪い患者を取り違える事故も過去にはありました。手術部位の左右間違いは、足、頭部、目などさまざま。レントゲン写真を裏返しに見たり、手術前のマーキングを忘れることが原因で“おかしいな”と思いながら手術してしまう。思い込みでとんでもない事故が起きています」(前出・田辺さん)
体内に置き土産……そんなマヌケな事例もある。
「手術後、ガーゼや医療器具の金属片、チューブ類、出血を抑えるために血管をつまんでいたクリップなどの異物を体内に取り残してしまう事故は毎年必ず報告を受けます。長期間気づかれなければ、炎症を起こして腫れあがるなどの障害が残る場合もあります」(前出・後信さん)
和歌山県有田市立病院では、左大腿骨を骨折した女性患者(40代)の体内に5年、済生会今治病院と愛媛大病院では、太ももの手術を受けた男性患者(40代)の体内になんと20年以上、ガーゼが取り残されたままだった。
「手術前、手術中、手術後にガーゼの枚数を数える病院も増えてきました。でも、スタッフの“枚数が合わない”との指摘を無視して医師が傷口をふさぎ、後でやっぱり体内に残っていた、といったこともまだあります。緊張感と集中力が求められる手術では医師もヘトヘト。ガーゼの枚数にまで気がまわらない精神状態であることが多い」(前出・後信さん)
チーム医療で“想定外のリスク”を減らす努力
過酷な職場環境でひとりの医師の限界を支えるのが、看護師や薬剤師など多くのスタッフのチーム力だ。この“チーム医療”を徹底する病院では日々、想定外のリスクをつぶしていく努力がなされている。
民間の総合病院に勤務する看護師が、こんな事例を教えてくれた。
「つい先日、リハビリ担当者と状態が安定している患者が2人でお風呂場に行ったら、血圧が上がりすぎて心停止したんです。偶然ほかの看護師が通りかかったので一大事は免れましたが、患者の予期せぬ容体急変で、死亡事故になったかもしれない。
すぐにスタッフ全員が集められて安全対策会議を開き、“風呂場にナースコールを設置すること”“スタッフ全員がケータイを必ず持ち歩くこと”が新しいルールになりました」
医師に全幅の信頼を置き命を預けるしかない患者にとって、病院での事故は受け入れがたいが、医療現場では事故が日常茶飯事であることもまた現実──。
名医ひとりの力量以上に病院全体で事故を防ぐ体制ができているか。そこに目を配ることが身を守るための一助となりそうだ。