制度開始から1年。始まったばかりだが、現場では役立てられているのか。
『医療過誤原告の会』には次のような相談が、重度障害が残った例も含めて170件ほど寄せられた。
《父親に腹部動脈瘤があり、手術をした。経過観察中に死亡したが、リスクの説明はされていなかった》(30代男性)
《娘が手術後、感染症で死亡した。病院は謝罪したものの、“民事責任はない”と主張し、センターにも届けていない》(50代女性)
《父親が入院中に急死。病院は“本人が点滴を操作したため”と説明するが、父親は寝たきりだった。納得できない》(50代男性)
《祖母が点滴を行ったあとに急死した。病院は“センターに届け出る”と言ったが、あとになって責任を否定し結局、届け出ていない》(30代男性)
《入院中の母親が胃ろうをしていたが、体内に栄養液が漏れ、腹膜炎で死亡した。病院側は調査し、謝罪した。しかしセンターには届けられていない》(50代男性)
《父親が頭痛で受診した。4日後に手術をし、その日のうちに死亡した。経過からも納得ができない。病院側は“責任はない”と説明するばかりだ》(30代男性)
《心臓カテーテルの手術中に死亡した。主治医は責任を認めたが、病院からは何の連絡もない》(40代女性)
制度で適用される可能性が高いケースも29件あったが、実際にセンターへ報告されたのは3件のみ。背景には“予期せぬ死、死産”の基準が統一されていない問題もある。
推計で交通事故の死亡者数の5倍も亡くなっている
「これは、病院に自主性と高い倫理観があることが前提の制度。しかし、届け出や調査をしなくても罰則はない。すべては病院側の院長判断なんです」(前出・宮脇さん)
制度開始からの1年間でセンターへ報告があったのは388件。当初想定していた年間2000件を大きく下回っている。
その理由をセンターは、
「原因がはっきりしない段階で報告に踏み切ると、医療過誤を認めたことになるのでは、という病院側の複雑な思いがあるためではないか」とする。
全国の入院患者数から推計する医療事故による死亡者は年間2万人以上とされる(『医療問題弁護団』公表資料)。報告が一部の事例にとどまっていることは明らかだ。
「交通事故の死亡者数は年間4000人ほど。その5倍も病院内で亡くなっているのに、一部しか届けられていない」(宮脇さん)
こうした状況を踏まえ、今年6月末に制度を一部改正。センターに遺族からの相談を受け付ける窓口が設けられた。内容によっては病院側にその情報を提供する。
改正後、約3か月の間に窓口に寄せられた相談は51件。このうち7件が病院側に伝えられた。ただ、強制力がないため、調査するかどうかは病院次第だ。