歌舞伎俳優・中村吉右衛門主演の『鬼平犯科帳』が全150作品でついにファイナルへ──。12月2日・3日の夜9時から、二夜連続で放送される『鬼平犯科帳 THE FINAL』(フジテレビ系)で、28年の歴史に幕を下ろす。中村吉右衛門が語る“鬼平”とは。
鬼平役のオファーを1度、断っていた
長谷川平蔵を最初に演じたのは、八代目松本幸四郎(松本白鸚)。吉右衛門の実父で、吉右衛門は、平蔵の息子・辰蔵役で出演している。新シリーズを作ることになり、原作者の池波正太郎にぜひにと懇願されたが、当時40歳の吉右衛門は1度、断っている。
「まだ若造で、人生の裏も表も知っている長谷川平蔵をとてもできないとお断りをしてしまいました。45歳のときに再び池波先生からご指名をいただきまして、小説の中の鬼平さんは45歳で長官になったわけで、私も同じ年でしたから、お引き受けすることにいたしました」
こうして吉右衛門版鬼平が誕生。全150作を“完投”。
思い出深い作品は?
「鬼平は舞台のない2月と8月にまとめ撮りをしますので、多いときには3本分の台本を持って同時に撮っていました(笑)。印象に残っているのは、シリーズ1作目第1話『暗剣白梅香』で、めったやたらに走らされまして、草履で走る、走る、走る……。それで立ち回りをするので、肉体的にも大変でした。今やれと言われてもできないことです」
撮影する京都の2月は底冷えの寒さ、8月はとにかく暑く、苦労も多かった。
「寒くて腹痛になりまして、それでも我慢して撮影を続けたこともあります。雪がまだ残る中、長い間、次のシーンのために待っていたり。それに足袋にわらじばきですから、直にその寒さがきます。今はそんなことを懐かしく思い出しております。しかし役者の苦労よりも、スタッフの方が大変だったと思います」
ファイナルには豪華ゲストが出演。見どころは?
「最後だというので、倅(せがれ)であり婿である尾上菊之助がにぎやかしに出てくれまして、一生懸命にやってくれました。1対1の立ち回りがありまして、倅を斬ることになるのですが、斬られないでよかったと思います(笑)」
殺陣(たて)ができる役者が減る中で、鬼平のカッコいい太刀さばきもこれで見納めだ。
「私はとにかく普通どおりにやっていましたが、若いときのようにはいきません。監督さんが丁寧に撮ってくださいまして、作品はいいものができたのではないかと思っています。
最後の立ち回りのときに、殺陣師の方が“これで終わっちゃうんですね”とポロポロと涙を流して、大の男が大泣きしてくれました。それだけ家族的感覚でいてくださったのを感じて、ありがたいと感じています。本当にみなさまのおかげです。長い間、ありがとうございました」
(『鬼平犯科帳THE FINAL』記者会見にて)