「日本もいよいよここまで来ちゃっているんだな」
政府は昨年11月、離れた場所にいる国連職員などが武装集団に襲われたとき、自衛隊が武器を使って助け出す『駆けつけ警護』を閣議決定、国連平和維持活動(PKO)のためアフリカ・南スーダンへ派遣される陸上自衛隊の新任務に加えた。安保関連法がついに本格的に動きだす。
「海外の戦場で公式な戦死兵を出した瞬間から“非戦国家日本”は事実上、崩壊します。沖縄に大きな負担をかけた欺瞞的な平和ではあるけれど、一応、建前としてやってきたその土台が崩れれば、戦後に築き上げてきた言葉や思想も崩れ去る。
戦後71年の歴史が切断される大きな局面に立っているのに、みな、あまり気にしていないし、自覚もないことに焦りを感じています」
戦争をしない国から、戦争をする国へ。'16年度予算案の軍事研究費は前年比18倍の108億円に膨れ上がった。憲法改正に向けた動きも活発だ。こうした現状を“新たな戦前”と呼ぶ人もいる。
だが七尾は、今につながる流れをアメリカ同時多発テロが起きた'01年当時、すでに感じ取っていたという。
「冷戦が終わり一強支配だったアメリカが少人数のテロであっけなくやられた。すごくインパクトがありました。その後のアフガン・イラク戦争は泥沼化、多くの負債を抱えるようになり、金融危機にも見舞われてアメリカは衰弱していきました。それにつれて日本の状況も変わってくるのは明白と思ったんです」
“世界の警察官”を降りるなど内向きになっていくアメリカと、再び戦場に回帰していく日本。冒頭で触れた『戦前世代』は9・11のあと、募る危機感が書かせた曲だ。
「戦前世代といっても当時は全然伝わらなかった。それがここ数年で正面から受け取られるようになったというか、リアリティーを帯びて響くようになったんでしょうね。複雑な気持ちです。日本もいよいよここまで来ちゃっているんだな、と」
「黙々と頑張っている人たちから影響を受ける」
とはいえ、「政治的な音楽を作ろうと目指しているわけじゃない」。カラフルな音楽で人を楽しませることが好きだ。そして、まだ誰も作っていない作品に取り組み続けた結果、「世の中の状況を反映した曲も自然に増えていった」と話す。
例えば、原発事故により避難指示区域で暮らす人々の切実な心情を表した『圏内の歌』、アフリカの『少年兵ギラン』、『沖縄県東村高江の歌』……。テーマはさまざまだが、埋もれがちな声に耳をそばだて、見過ごされた風景に目を凝らす眼差しは一貫している。
「僕自身、別にいばるような存在じゃなかったからでしょうね。貧困県で育った中卒だし。これが正義だ! みたいなものより、近所の食堂のおばちゃんとか、世の中がよくなるために黙々と頑張っている人たちから影響を受けることが多いんです。仕事柄、地方へよく行くんだけど、北九州の炭鉱で働いていたおじいさんと知り合ったり、沖縄の離島では海人のおじさんと仲よくなったり。あちこちに素敵な人がいて、話していると、歌を思いつくんです」