身分証になる運転経歴証明書
「“もう乗らない”という判断を本人、ないし家族で決めてもらって、免許返納をする方が多くなっていると思います」(全国交通安全協会)
返納の際には各自治体によってさまざまではあるが、タクシー券やバス乗車券、またホテルやレストランの各種割引券など“特典”の配布がされることも。また高木ブーも返納時に小池知事から受け取った、過去5年間の運転歴などが記された『運転経歴証明書』を申請することができる。これは今後、免許証にかわる身分証明書になるのだという。
昨年7月、70歳の誕生日を機に免許証を返納したジャーナリストの大谷昭宏氏も、同様に運転経歴証明書を所持しているのだが、
「これが困ったもので、まったく浸透していないのです(苦笑)。例えば、原発の取材に入るときに経歴証明書を提示したんですが、“これは免許証じゃないですよ”と断られてしまったのです。“違うでしょう。警察庁に問い合わせてください”といって、ようやく“免許証のかわりですよ”と」
冒頭の『統一行事』は、経歴証明書への認識を広めることも目的としていたのかもしれない。
一方で、電車や地下鉄、バスなど交通手段に不自由のない都市部とは違い、車に頼らざるをえない地方に住む高齢者にとって、免許返納は死活問題だ。大谷氏が提案する。
「例えば病院に行くため、スーパーに行くために必要だとおっしゃる方もいらっしゃる。その地域内の一般道路にのみ通用する“限定免許証”を発行してはどうだろうかと。例えば、われわれも定められた視力がなければ、眼鏡をかけなくてはいけないという条件免許がありますよね。
高速道路を除外して一般道路のみにする。あるいは日没から夜明けまでは運転不可など免許試験場側と話し合って“あなたの場合はこういう限定免許にしましょう”と、それぞれに合った免許にするのです。事故はかなり減ると思いますよ」
それでも自主返納はやはり必要なものと主張する大谷氏。
「80歳や85歳になる、しっかりとした人生を送ってきた方々でも、2~3人を亡くす事故を起こしたら実刑は免れない。そうなれば獄中死ですよ。ちょっとめんどくさいからと車を使ったばかりに、ほんの一瞬の出来事で、最晩年は家族に看取られることもなく刑務所で亡くなっていくわけです。家族にしても80歳のおじいちゃんが刑務所に入るのを見送るわけです。
必死になって止めなさいと、真剣に返納を説得しなさいと。われわれ取材している側は、そういう現実をいやというほど見ていますから、高齢者の運転はやめなさいと強く訴えているのです」
堅実に積み重ねてきた人生が崩れ落ちるのは、一瞬のことなのだ。