「物事を全部、自分の意志で選択することには限界があって、仕事じゃなきゃやらないこともいっぱいある。さらにその中間にある、興味はあるけど、きっかけがないからやらないこともたくさんあるので、今回は、それをしらみつぶしにできるチャンスなのかなと思っています」

 取材場所は羽田さんの自宅兼仕事場。それにしても物がとても少ないですね?

「先日、昔の書類や学生時代の卒業記念冊子などをデータ化して、折りたたみコンテナ1箱半くらいの書類を捨てたんです。デビュー作のゲラも処分しました。そうやって自分の過去と向き合ってみたら、過去って大したことないなって思いました(笑)」

 それまで小説を書くために地道に集めてきた、医療や高齢化問題の資料、裁判記録などの書類もごっそり処分。興味の対象は、物から経験へシフトしているという。

「小説の資料って過去とも思い出とも違って、これから描く未来に向かったものとして保管していたんですけど、資料や書物から得た知識を加工して発信していくっていうのは違う作家がやればよくて、むしろ自分にしかできない経験を通して書いたほうがいいのかなと思ったんです。

 それは私小説的なものとは違っていて、例えば都市生活者の妄想みたいな小説を書こうとしたときに、その題材を求めて自分が体験して、そこから膨らませて書くほうがいいんじゃないかなって。物とか資料よりも経験だと感じていたので、初体験を求めていたところはあるんですよ」

 大量の食材を買い込んで自炊し、それを冷凍して食べるという倹約的な生活をしていた羽田さん。これまで鶏ハムやオープンサンド、牛丼など特定のメニューをしばらくの間続けて食べ、外食はほとんどしない生活だったそうですが、新しい冷蔵庫を手に入れたことがきっかけとなり、3日連続で外食をする初体験をしたばかり。