これ、ドキュメンタリー? それともフィクション? と、戸惑った。

 主人公はタイトルどおり、10歳のトトと、ふたりのお姉ちゃんのアナとアンドレア。お母さんは麻薬取引で収監されており、殺風景なアパートの一室に子どもたちだけで暮らしているようだ。そこに叔父さんらがやってきては、トトたちの目の前でドラッグを打つ。

 トトは空腹すぎて力が出ないようだ。そこで叔父さんが作り始めたのが、コンクリートに溝掘り、ニクロム線を巻きつけた簡易の電熱調理器具。このアパートには水道やガスが通ってないという。

 そんなトトたちの家に、麻薬捜査隊が踏み込みアナや叔父たちが連行される。その映像は警察が撮影したもの。ここでようやく本作は本当にドキュメンタリーなのだと確信する。同時に、こんな環境で育つ子どもたちの未来を案じ、いたたまれない気持ちになった。

 しかし意外な展開が待ち受けている。本作はトトたちに約1年間、密着したアレクサンダー・ナナウ監督の映像と、アンドレアが撮影したもので構成されている。本作を製作するに当たってナナウ監督は、地区の児童クラブで3か月にわたって映画教室を開催。カメラで撮ることの意義を伝えたうえで、興味を示したアンドレアにカメラを渡したという。姉がどんどんクスリに溺れていき、頼れる大人がいない中、アンドレアがカメラに向かって独白するシーンがある。 “撮る” という行為が、いかに彼女の心の支えになっていったかがわかるだろう。

 一方、トトは児童クラブで教わったヒップホップダンスに夢中になる。陰鬱な生活ではない、別の世界があることを知った2人は、ある決断をする。自分の人生は、自分で決める! そんな大切なことを教えてくれるアンドレアとトトを、ぎゅっと抱きしめたくなるだろう。

文/中山治美
’69年、茨城出身。映画ジャーナリスト。最近、わが故郷が何かと話題に。朝ドラ『ひよっこ』を見ながら、やっぱりウチらなまってるんだなぁとしみじみ。