約10年間の下積み生活を経て、念願のプロデビュー
そうやって始まった“ミュージシャン人生”だったが、プロデビューするまでの道のりは決して平坦ではなかった。高校卒業後、就職はしたものの、1日で退職。退職したその日の夜から、“ハコバン”生活が始まった。バンドを入れて生演奏をする店のことをミュージシャン用語で“ハコ(箱)”と呼ぶ。その店に出るバンドは“ハコバン”と呼ばれている。
「セミプロですね。当時、仙台でもバンドが入る店が40から50くらいあって、東北のミュージシャンが仙台に集まっていました。楽屋ではお国訛(なま)りが飛び交っていてね。そういうところで約10年。途中、東京に出たこともありましたが、うまくいかず1年ほどで地元に戻りました。まあ、下積みみたいなものですね」
そして、念願のプロデビューは'82年1月。彼が28歳のときだった。それから35年、カバーも含めリリースした曲は膨大な数にのぼる。しかし、この35年間も楽な道のりではなかったという。
「デビューして10年くらいたったときに、ライブがあまり楽しくないと感じるようになったんです。セミプロとプロの違いなんでしょうが、ハコバン時代は僕の歌を聴きに来る人は皆無に等しい。まあBGM扱いですね。それがプロになったら、100%僕の歌を聴きに来る人です。その人たちに楽しんでもらえるライブというのを考えたときに、やはりプレッシャーとか責任とかを感じるようになって、何か金属疲労みたいな気持ちになっちゃったんですね」
しかし、根っから音楽が好きな彼は、これではいけないとすぐさま軌道修正に着手。
「自分が楽しい、自分が楽しくクリエイトできる音楽を目指すようになりました。音楽って“音を楽しむ”ですから音苦になっちゃったらしょうがないからね(笑)。今はすごくいい状態で歌えています」
'08年からは、J-POPの名曲をカバーして女性シンガーとデュエットするという新しい試みもスタートした。1曲目の高橋洋子から始まって、松浦亜弥、中森明菜、大橋純子、土屋アンナなど実力派女性シンガーとのデュエットは、なんと今回で60曲目に達した。
「記念すべき60曲目の『過ち』はAKB48(NMB48)の山本彩さんとのデュエットです。60曲というのは石原裕次郎さんを抜いてデュエットの日本記録なんですよ」
『過ち』はAKB48のニューアルバム『サムネイル』に収録され、人気を集めており、新たな稲垣潤一ファンが増えそうな気配だ。
そして、今月10日からは35周年を記念してコンサートツアーがスタートする。
「ライブに来てくださる方たちはいろいろです。シングルマザーの方もいれば、家族の介護をされている方も。僕がデビュー35年ですから、デビュー当時、カップルでいらした方が結婚して、お孫さんを連れて来られたり。だからステージから客席を見ると、この35年をいちばん実感するんです。またファンのみなさんは自分の思い出を曲に重ね合わせる方が多いんです。今後もみなさんが思い出に重ね合わせられるような曲を歌っていきたいですね。その思いはデビューからずっと変わらずブレることはありません」
デビューして35年だが初バンド結成からは50年近い。稲垣のミュージシャン人生は《いつか気づけばロング・バージョン》となっている。
<ツアー情報>
JCB presents 35th Anniversary コンサート2017
・6月10日(土)【群馬】前橋市民文化会館 大ホール/開場16:00 開演16:30
・6月17日(土)【大阪】NHK大阪ホール/開場16:15 開演17:00
・6月23日(金)【東京】東京国際フォーラム ホールC/開場18:00 開演19:30
・6月24日(土)【神奈川】横浜・関内ホール/開場17:00 開演17:30
・7月1日(土)【長野】長野県伊那文化会館/開場17:30 開演18:00
詳細:http://www.j-inagaki.com/