『ハクソー・リッジ』●監督:メル・ギブソン/出演:アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、ルーク・ブレイシー、テリーサ・パーマーほか/上映時間:2時間19分/アメリカ、オーストラリア/配給:キノフィルムズ/PG12 2017年6月24日(土)より、TOHOシネマズ スカラ座ほかで全国公開 (c) Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

 ハリウッドの人気スター、メル・ギブソンは、かつては『マッドマックス』や『リーサル・ウェポン』といったアクション系の大ヒットシリーズで知られていた。監督としての手腕も評価され、『ブレイブハート』ではアカデミー賞も受賞。ところが、あるときから奇行を見せるようになり、キャリアが低迷していた。そんな彼がこの新作で久しぶりに監督に復帰。これがスゴイとしかいいようのない壮絶な内容で、その力技に圧倒される。今年のアカデミー賞の作品賞・監督賞候補になっていたが、それも納得の見ごたえある作品だ。

 実話の映画化で、舞台は第2次大戦中の沖縄。激戦を極めた“ハクソー・リッジ”(のこぎりの崖)と呼ばれた絶壁での戦いがハイライトとなっている。主人公はか細い体形の青年で、ある信念を持つ彼は武器で人を殺すことを嫌い、軍隊での訓練でも銃を手にしない。入隊の目的は人を殺すことではなく、衛生兵となって負傷した兵士を助けること。そんな彼の望みは周囲に受け入れられないが、やがては内に秘めた本当の勇気を発揮して、大勢の命を救う。

 主人公を演じるのは注目の若手の演技派、アンドリュー・ガーフィールドで、外見はいかにも繊細そうな好青年に見える。そんな彼が前線に出るとハラハラするが、一見、頼りない兵士だからこそ、クライマックスでの意外な行動に驚かされる。世界情勢が不安定な現代だからこそ、国籍を超え、人の命を救うために戦場でひとり奮闘する彼の姿に心を揺さぶられる。

 ガーフィールドは『アメイジング・スパイダーマン』シリーズや『沈黙―サイレンス―』にも主演していたが、この映画では熱演が認められて、初のアカデミー賞候補となる。前半では恋人とのほほえましいロマンスや家族との関係も描かれているので、戦争映画なれど、ぜひ女性にも見てほしい。最後は主人公の行動に拍手を送りたくなるだろう。

文/大森さわこ
テレビシリーズ『ダウントン・アビー』のファンゆえ、現在放映中の第6シーズンも一応チェック。とってつけたような挿話もあるけど、キャストと衣装の魅力で、なんとか最後まで……。