がん治療で髪の毛を失った女子高校生。人目が気になるからウイッグをかぶりたいが、治療で弱った肌には市販のウイッグはチクチクと痛い。しかたなく外出時は刺激の少ないふわふわ素材の帽子をかぶり、いつもうつむきがち。
そんな彼女を変えたのがヘアドネーション活動によって提供された医療用ウイッグだ。長い髪の状態で送られてきたウイッグを持って美容院に行き、自分好みのスタイルにカット。久々におしゃれができる……!
「鏡の中の自分が、久しぶりに笑顔になってました」
寄付する側・受け取る側どちらも笑顔に
──脱毛症や乏毛症、がん治療の影響やケガなど、さまざまな事情で、頭髪に悩みを抱える人たちがいる。特に成長期の子どもの場合、既製品のウイッグが合わず、オーダーで作るとなると50万円近くかかってしまうという問題がある。多感な時期に、かぶれるウイッグがないことにより、人目を気にして、あるいは実際に心ない言葉や視線に傷ついて、家から出られなくなってしまうケースも。
そんな子どもたちが笑顔を取り戻せるよう展開されているのが先に触れたヘアドネーションだ。これは、伸ばした髪の毛を寄付すると、医療用ウイッグとして加工され、髪の毛のことで困っている子どもたちのもとに無償で届けられるというもの。芸能人や小学生男子が参加したことでも話題となり、多くの人に知られるようになった。
〈わが子も小児がんで入院し、脱毛経験があります。子どもは天使になってしまいましたが、同じように脱毛経験のある子どもが少しでも笑顔になってもらえたら……と思い、参加させていただきました〉(提供者からの手紙)
寄付のきっかけや思いはさまざまだが、寄付する側・受け取る側が笑顔になれるヘアドネーション。この活動を日本でいち早く始めた団体がJapan Hair Donation&Charity(JHD&C、通称ジャーダック)だ。冒頭の高校生にウイッグを届けたのもジャーダックの活動の一環。人毛100%で頭にフィットするフルオーダー、肌にやさしい製法なので、着用時の負担も少ない。団体を設立したのは美容師の渡辺貴一さんだ。
「2008年に自分でサロンを開業することになり、その際、“美容院がたくさんある中、今までにない価値観を打ち出したい”“美容師だからこそできることはないか”“髪の毛で世の中に恩返しがしたい”と考えたのです」
そこで目にとめたのが、アメリカで一般化しつつあったヘアドネーションだ。渡辺さんは1年の準備期間を経てジャーダックを設立、活動をスタートした。
寄付した髪の毛がどのように医療用ウイッグに変身するのか、教えてもらった。現在、ジャーダックで募集しているのは31センチ以上の髪の毛。どうしてそんな長さが必要なのか疑問を持つ人も多いという。
「実は、ウイッグを作るとき、髪の毛が抜けにくいようV字にして植えるため、仕上がりの長さが半分~3分の2くらいになってしまう。31センチでやっとショートボブが作れる程度。長ければ長いほどありがたいのです。31センチ未満の髪については、ウイッグにならないため、ヘアケア剤メーカーに研究開発用の材料などとして買い取ってもらい、そのお金をウイッグ制作費用にまわしています」(渡辺さん、以下同)
長さを満たしていれば、カラーやパーマをかけた髪はもちろん、白髪などでもOK! 読者世代のオトナ髪でも寄付できるのだ!