夫婦が希望すれば、結婚後もそれぞれの姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」への注目がにわかに高まっている。夫婦別姓が選べるよう法制化を求める訴訟が相次ぐほか、有志による請願も活発だ。

男女平等の立場でフラットに話し合いができる社会に

 市民グループ『選択的夫婦別姓・全国陳情アクション』は地方議会から国へ働きかけてもらおうと2018年より陳情を行っている。これまでに38の地方議会で採択され、選択的夫婦別姓の法制化を求める意見書が国へ送られた。

 こうした動きを世論も後押しする。内閣府が'17年に行った調査では、選択的夫婦別姓を認めるための法改正を「してもかまわない」と答えたのは42・5%と、反対する人の29・3%を上回った。18~59歳までに限れば半数が「賛成派」と言える状況だ。

 一方で、夫婦別姓には「家族の絆が崩壊する」「子どもがかわいそう」などと反対する声が根強い。今年1月に国会で、選択的夫婦別姓について「だったら結婚しなくていい」とのヤジが飛んだことは記憶に新しい。ヤジの主は、自民党の杉田水脈(みお)衆院議員ではないかと疑惑がもたれ、批判を集めた。

 現在、先進国で夫婦別姓を認めていないのは日本だけ。民法の条文では「夫または妻の氏を称する」と定めているが、実際に名字を変えるのは96%が女性だ。陳情アクションで事務局長を務める井田奈穂さんも、そのひとり。

 井田さんは1995年に学生結婚をした際、夫の姓である井田に改姓した。その名前でキャリアを積んでいたため離婚後も井田姓のままでいた。

 その後、現在の夫と婚姻届を提出しない「事実婚」をしたものの、2016年、夫が入院することになり問題が発生。事実婚では手術の同意手続きができないというのだ。井田さんは再婚を決意して、再び姓を変えた。

「2度とも望んだ改姓ではありません。1度目の結婚では、元夫から“女の姓になるのは恥ずかしい”“本家の長男だから”などと一蹴されました。そのとき私に知識があったら、女性に姓を選ぶ権利があることがわかったのにと思うと、悔しいです」(井田さん)

 子どもたちは再婚を応援してくれたが、改姓は望まなかった。とはいえ、夫が妻側の井田姓に改姓すれば、前夫の姓を名乗らせることになる。井田さんは子どもとの戸籍を抜け、現夫の姓に変えた。

「仕事で支障があるので、通称で井田姓を使い続けていますが、もう、どの名字も自分だとは思えない。そのうえ膨大な改姓手続きに悩まされました。なぜ結婚で“自分が自分であること”を捨てなければいけないのでしょうか。男女平等の立場でフラットに話し合いができる社会になってほしいです」

 夫婦が同じ姓であることを求める現行制度は、「同姓強制」と言える。井田さんは「私たちは別姓推進派ではありません。選択して、同姓にも別姓にもできるようにしたいだけ。好きな人の姓になりたい人は、それがその人の幸せなら、どうぞなってください。お互いの幸せの形を認め合いましょう」と訴える。