ミリオンセラーを連発し、若い女性たちの憧れの存在だった。「シンデレラ」「歌姫」と呼ばれたものの、人生は一転。紆余曲折の末、再始動を決めた彼女は今、何を思い、考えているのか。彼女は今、自分の人生を『I'm proud』といえるのか。気鋭の作家が斬り込んだ―。

息子は芸能界に行かないでほしい

 音楽番組が大人気で、ミリオンセラーのCDが連発していた'90年代後半。その時代を代表する存在のひとりで、かつ「平成のシンデレラ」と呼ばれていたのが華原朋美さんだ。

 だが、私たちはそのシンデレラが、その後一瞬にして奈落の底に落ちるところも目撃する。それ以降、彼女は歌姫というより、さまざまなお騒がせニュースを提供する存在として認識されるようになる。

 昨年、フリーになったことを契機に、最近再び、積極的にメディアに登場するようになった華原さん。しかし、以前とはどこか違う強さや晴れやかさも感じられるようになった。

 今、彼女は何を見据えているのか。女を描いたら当代一といわれる作家・岩井志麻子さんが、華原さんの現在、そしてこれからを聞いた─。

岩井 お子さんは、今おいくつになったんですか。

華原 いま1歳半です。動画を見せますね。

岩井 あらかわいい! 『I'm proud』の歌に合わせて踊ってる! お嬢さん? 

華原 男の子なんです。

岩井 踊るのも好きそうだから、芸能界を目指したらどうですか。

華原 芸能界には、行かないでほしいですね。特に歌手には、なってほしくないです。私みたいなつらい思いをする人生を歩んでほしくない。それだけじゃなくて、今は歌手を目指しても大変ですよ。まず売れないだろうし、CDは昔みたいにミリオンセラーなんて考えられないですから。

岩井 なるほどね。いいときから底辺まですべて経験してきた朋ちゃんにそう言われるとね。

 でも、私もですけど、華原さんのこと、老若男女問わず“朋ちゃん”て、呼んでしまいますよね。百恵ちゃんとか、聖子ちゃんとかと一緒。国民的な存在ということなんでしょう。みんなの妹、というか。

華原 そうなんですよ。みんなに“朋ちゃん”て呼んでもらえるのはとってもうれしいんですけど、なんか、いつでも心配されている感じがするんですよね。息子を妊娠した際、7か月のときに発表したんですけど、「おめでとう」じゃなくて「大丈夫?」の声のほうが多かったですし(笑)。

岩井 でもね、朋ちゃんて、どこか暗くないんですよ。不幸感があまりない。心配はするんだけど、まあ大丈夫だろう、なんとかなるだろうと。で、どこかで笑えちゃう。

華原 そう言ってもらえるとうれしいです。でも、20代のときに本当につらい思いをしましたからね。今は信頼できる人たちに囲まれているから、落ち着いていられますが、夜にひとりになると、たまにあのころみたいなつらい思いがぶり返してきたりもします。

 あのころは、薬が手放せなくて、入退院を繰り返して……。人生の壁に押しつぶされていたわけで、お医者さまで治せる病気ではなかったですから

岩井 お医者さまでは治せない病気ね。病気は愛では治せない、愛よりお医者さまに通うことのほうが大切だ、という言葉もありますが、当時、朋ちゃんが置かれていた立場の闇の深さを感じますよ。

華原 でも、息子には、早く私がどんな人生を送ってきたのか知ってほしいと思っています。あと何年かすれば、ママのことを検索できるようになるでしょうし。それで、判断してほしいです