さきごろ放送された音楽系番組で、さだまさしの代表曲『関白宣言』やおニャン子クラブのデビュー曲『セーラー服を脱がさないで』の歌詞に、番組出演者の藤田ニコルや乃木坂46のメンバーらが「ムリムリ」「すごい歌」など拒否反応を見せたことが話題を集めた。
いずれも大ヒットしたものの、当時から一部で反発されたり問題視された曲でもあるが、かつては不倫や暴力、犯罪など、現代の倫理観、コンプライアンス基準からみればありえないような事柄を歌ったヒット曲はさほど珍しいものではなかった。
尾崎豊はバイクを盗み、チャッカーズは傷つけた
不倫系の大ヒットで思い出されるのが、1985年のヒット曲、島津ゆたかの『ホテル』(作詞/なかにし礼)だ。
「付き合っている男性の家に、電話もかけられない、手紙も書けない。携帯もメールも身近にない時代ですからつらいですよね。曲名どおり、ホテルでだけ会う関係で、これは今もありそうですが、自分の名前が男性の名前で書かれていたり(笑)。この曲に限らず、こういった歌詞を共感できる立場の方々ばかりでなく、ときには小中学生も普通に聴き親しんでいたということが、今の感覚からすると一番の驚きかもしれませんね」
と、ある音楽系ライターは、許されない恋愛をせつなく歌われていた『ホテル』の歌詞を見直し、時代の流れに驚く。過去を見返すとほかにもまだまだある。
土曜の夜や日曜日には会えなかったり、電話を気軽にかけられないせつなさを歌った小林明子の『恋に落ちて-Fall in Love-』(85年)、テレサ・テンのそのものズバリの『愛人』(85年)、サザンオールスターズの『LOVE AFFAIR~秘密のデート~』(98年)などなどといったところだろうか。
「近年でいうとドリカムの『やさしいキスをして』(04年)、EXILEの『Ti Amo』(08年)、宇多田ヒカルと椎名林檎が歌った『二時間だけのバカンス』(16年)など、時代が変わっても普遍のテーマではあります」(同前)
このような過去の名曲の詞の世界の話になると、必ずといっていいほど挙げられるのが尾崎豊の楽曲ではないだろうか。盗んだバイクで走り、校舎の窓を割ったり、思春期の爆発しそうな葛藤を表現した歌詞は、あまりにも有名すぎる。
前出のライターが続ける。
「デビュー直後のチェッカーズも、触るものすべてを傷つけたり、チャゲアスが“一緒に殴りに行こうか”と問いかけるのも、今の時代ではアウトかもしれませんね(笑)。一部のメタルやパンクの楽曲も、そういう観点ではアンチテーゼを掲げた表現だとしても、ダメだと指摘されるかもしれません」