賛否が渦巻いたNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』が終わる。ヒロイン・比嘉暢子に扮した黒島結菜(25)の演技についても議論百出だったが、黒島自身の損得を計算すると、得をしたのは間違いない。顔と名前が広く知れわたったからだ。
賛否の『ちむどんどん』、でも視聴率は今期トップ
黒島は2012年にデビューし、NHKの時代劇『アシガール』(2017年)などに主演してきたものの、知名度が十分とは言い難かった。秀作はあったが、ヒット作とは呼べなかったためだ。しかし、もう知らぬ人はいない。
『ちむどんどん』の視聴率は世帯が16%前後で個人が8%前後(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。最終的に近年の朝ドラでは最低を記録しそうだが、それでも現在放送中の全ドラマの中で断トツのトップ。朝ドラは人気商売である女優が顔と名前を売るには格好の場だ。
暢子が他人の気持ちを推し量れないキャラクターだったため、黒島まで苦手になってしまった人がいるかも知れない。また、黒島の演技が暢子の高校時代から出産後まで一本調子だったことにクビを捻った人もいるはず。
もっとも、それは脚本と演出に従ったもの。黒島に限らず、役者の実力は1作だけでは量れない。勝負はこれから。この朝ドラで得られた知名度を生かすも殺すも本人次第である。
黒島は10月からKing & Prince・平野紫耀(25)が主演のTBS系ドラマ『クロサギ』(金曜夜10時)でヒロインを務める。平野は詐欺師のみを騙す特殊な詐欺師に扮し、黒島は検事を目指す正義感の強い大学生を演じる。今度は嫌われそうにない役柄である。
朝ドラヒロインを務めると、知名度が武器になり、しばらくは大きな仕事が来る。だが、不評が2、3作続くと、元の木阿弥になってしまう。黒島も正念場だ。
朝ドラをジャンピングボードにした好例が『澪つくし』(1985年度上期)の沢口靖子(57)である。沢口は1984年の第1回「東宝シンデレラオーディション」でグランプリに選ばれ、直後に『ゴジラ』など2作の映画に出演したものの、茶の間の知名度はもう一歩だった。だが、この朝ドラのヒロイン・古川かをる役を演じたことで、状況は一変する。
かをると吉武惣吉(川野太郎)による「ロミオとジュリエット」を思わせるラブストーリーで、視聴者は画面に釘付けになった。平均世帯視聴率は44.3%に達した(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。沢口は十分過ぎるほどの知名度を得た。
沢口は翌1986年、TBS系連続ドラマ『痛快!OL通り』に主演。これも大ヒットし、視聴率は20%を突破した。『澪つくし』で沢口を知ったことで見た人も多かったはずだ。そもそも朝ドラに主演してなかったら、『痛快!OL通り』の話もなかったかも知れない。以降は順風満帆。一度も主演級から退いたことがない。