今年は、日本でテレビ放送が始まって70年という節目の年を迎える。
NHKにしかできない番組の制作秘話
これを記念して、現在NHKでは、放送してきたほぼすべての番組を紹介する「NHKテレビ放送開始70年特設サイト テレビ70」を開設。歴代の朝ドラ、大河ドラマのラインナップはもちろん、スポーツ、ドキュメンタリー、紀行、アニメなど、これまでNHKが手がけてきた番組を、まるで博物館の展示物を見るような感覚で再確認することができる。
「ソフトの豊かさは、他の追随を許さないのではないかと思う」と語るのは、元NHKアナウンサーの堀尾正明さん。『スタジオパークからこんにちは』('95年)をはじめ、『第55回NHK紅白歌合戦』('04年)の総合司会や、『NHKニュース10』('00年)のメインキャスターを務めるなど、多岐にわたってNHKの番組を担当してきた。
「スタジオパークもそうでしたが、NHKの核の一つに公開放送があります。NHKは、視聴者の皆さんから受信料をいただき制作する公共放送です。視聴者を大切にするという気持ちがありますから、可能な限り皆さんにも楽しんでいただきたい。そういう思いが強いんですね」(堀尾さん、以下同)
『NHKのど自慢』や、過去には『レッツゴーヤング』('74年)や『ポップジャム』('93年)。堀尾さんが話すように、NHKの公開収録番組には名番組が少なくない。
「スタジオパークが始まったのは、'95年3月22日でした。その2日前には、地下鉄サリン事件が発生しました。そのため、公開収録は中止にしたほうがいいのではないかという議論もありました。ですが、楽しみにしている方を落胆させてはいけないということで、公開収録に踏み切った。放送された番組では楽しそうな雰囲気に包まれていたと思うのですが、僕らもスタッフもものすごい緊張感があったんです」
NHKといえば、『NHKスペシャル』('89年)や『映像の世紀』('95年)、『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』('00年)といった、報道・ドキュメンタリーの分野においても魅せられたという人は多いはず。堀尾さんは、「世界的なネットワークがあるからこそ」と声を大にする。
「僕がいた当時は、国内47都道府県に54の放送局がありました。ネットのない時代においては、NHKの情報の収集量は圧倒的でした」
実はこうしたネットワークがあるからこそ、NHKアナウンサーの基礎体力が身についたとも付け加える。
「新人のNHKアナウンサーは、初任地である地方局で基礎を学びます。アナウンス力を磨くだけではなく、自らネタを探してきて、企画を提案し番組を作る─つまり、ディレクター的な業務も兼務します」
なんでも、カメラを回すことも、ナレーションのアテレコも、すべて自分で担当するという。しかも、最後は自分が出演し、アナウンサーとして伝えるというのだから、一人二役どころではない。幅広い視野を持つからこそ、NHKには実力のあるアナウンサーが多いというわけだ。
「地方局に在籍中は、視聴者の方と距離感が近いものですから、街中でも『堀尾さん!』なんてよく声をかけられます。うれしい半面、変な姿は見せられないというプレッシャーもある。また、近いからこそ、お叱りの投書も届きます。『もっとやせてください』とか『画面に映る堀尾さんの顔が大きいので何とかしてほしい』と書いてあったときは、さすがに笑うしかなかったですよ(笑)」