将棋の『第9期叡王戦』5番勝負第3局が5月2日に名古屋市で行われ、挑戦者の伊藤匠七段(21)が藤井聡太八冠(21)に勝利。対戦成績を2勝1敗とし初タイトル獲得に王手をかけた。
“藤井八冠に初めてタイトル戦で連勝し、初めてカド番に追い込んだ男”として脚光を浴びた、“イトタク”こと伊藤七段が将棋を始めたのは5歳のころ。
「東京・世田谷にある三軒茶屋将棋倶楽部で、宮田利男八段に指導を受けて手塩にかけて育てられたそうです。小さいころから記憶力がすごかったりと、聡明さを表すエピソードはいろいろ聞きますね」
こう話してくれたのは将棋ライターの松本博文さん。3歳を前にひらがな、カタカナ、アルファベットを覚えたり、世界の国名と国旗、場所まで記憶してしまったりと数々の逸話があるという伊藤七段だが、プロになった今でもこんな話があるそう。
藤井八冠を号泣させた伊藤少年
「現代の将棋界ではコンピューター将棋(AI)の研究が必須です。渡辺明九段は“AI研究の三強”として藤井八冠、永瀬拓矢九段、そして伊藤七段の名を挙げています。伊藤七段は事前に広く深く研究し、理解した上で、他の棋士が驚くほどに膨大な変化を記憶して対局に臨んでいます」(松本さん、以下同)
同学年の藤井八冠とは小学生のときにも対戦し勝利したことが。
「小学3年生のときに将棋の全国大会があり、準決勝で対局して、伊藤少年が勝利して藤井少年は号泣したというエピソードがあります。藤井さんは当時から強かったんですが、今みたいにほとんど負けないというわけではなかったんです。ただ、その後は藤井さんが差をつけていったため、伊藤さんはかなり意識したようです」
17歳でプロになってからは、有望株として評判で、着実に実力をつけていった。
「将棋のプロの世界は、実力のない人には厳しいんです。勝敗や内容、対戦者の語る印象などから、シビアに才能がはかられ、評判は広まっていきます。伊藤さんは奨励会在籍時からすでに、先輩棋士たちの間で『強い』という声が上がっていました。藤井さんがほとんどの最年少記録を塗り替えていったので、その活躍の陰に隠れてしまったところはあったのですが、伊藤さんも早くから関係者の間では注目されていました」
次の叡王戦第4局は5月31日に千葉県で開催。ライバルともいうべき藤井八冠に勝利して、初タイトルを獲得できるのか?
「相手は八冠ですから、謙虚な伊藤さんは藤井さんをライバルではなく、格上の存在と思っているでしょう。以前の2回のタイトル戦も、伊藤さんは藤井さんにストレートで負けています。ただ伊藤さんの実力からして、藤井さん以外の相手であれば、違う結果になっていたかもしれない。もし今回の叡王戦で伊藤さんが藤井さんに勝利してタイトルを取ったら、藤井さんのライバルになったと言っていいのではないでしょうか」