「また4年できるのかを考え、今の僕では不可能と思った」

 突然の引退表明。フィギュアスケートの高橋大輔が、10月14日に岡山県内で記者会見を開き、考えぬいたうえの決断を発表した。このタイミングになった理由を、彼は言葉を選びながら説明。

「1年かけて考えようかと思ったけれど、やっぱりシーズンが始まる前に言おうと思った。ほかの選手がこれからモチベーションを上げる中ではなく、前がいいのかな、と」

 自分のことよりもほかの選手の気持ちを優先するという、高橋らしい思いやりのこもった言葉だった。度重なるけがを克服し、’10 年のバンクーバー五輪では3位となり、アジア人初となる男子シングルスのメダルを獲得。引退会見ではこのときのことを一番の思い出に挙げ「表彰台から見た景色を鮮明に覚えています」と話した。

1021_羽生_鈴木明子

 今年3月、高橋に先んじて女子フィギュアの鈴木明子が引退を迎えることに。彼の1歳年上である鈴木とは、お互いに悩みを話せる貴重な存在だった。実はソチ五輪の後、鈴木から高橋にこんなメールが届いていたという。

《ソチで最後にするか、3月の世界選手権までやるか正直迷っている。でも、私の両足はもう限界。どうすればいいんだろう……》

 同年代であり、引退のタイミングを考える時期も同じだったのだ。悩んだ末に高橋が送ったメールはというと、

《日本でやる大会なんだから、順位は関係ないよ。みんな明子さんの滑りを見たいんだから出場すべきだ》

 その言葉に押されるようにして、鈴木は世界選手権に出場。言葉どおり観客を魅了して6位という成績を残し、静かにリンクを去ったのだった。そして、今度は高橋が自らの将来について決断を下した。