子どもたちのいじめはSNSなどインターネット上で行われている。放課後の教室や近所の公園で悪さをしていれば、大人にも見つけようがある。
しかし、ネット空間は無限に広がっており、いじめなどの問題行為を確認するのは容易ではない。子どもたちを守るためにITのプロとタッグを組む学校が増えている。
「ネットいじめで命を絶つ子をなくしたい。企業にもできることがあるんじゃないか」
きっかけは、社員のそんな声だったという。ツイッターなどソーシャルメディアの企業向けモニタリング事業を手がける「アディッシュ」が、学校向けに提供する「スクールガーディアン」が注目を集めている。
ネット上の生徒の悪口やいじめなどのトラブルを学校に代わって監視するサービスで、実態把握が難しい学校非公式サイトの書き込みを常時パトロールする。
監視対象は巨大匿名掲示板やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、Q&Aサイト、ブログなど。学校名(略称含む)の書き込みなどがあると自動検索される。
ただし、投稿で使われている言葉だけでは、いじめや悪口とは断定できない。サイト監視のプロフェッショナルチームによる目視を行う。佐々木由起子・スクールガーディアン事業部長はこう話す。
「例えば、『死ね』という言葉があったとしても、意図や表現方法などを見ないと、不適切なやりとりかどうかはわかりません。SNSやブログのサービスでは規約で禁止行為が挙げられていますが、それよりも細かく見ています」
同サービスの提供が始まったのは2007年からだ。同年7月、兵庫県神戸市の私立高校で3年生の男子生徒が校舎から飛び降り自殺した。
生徒のポケットには、「お金が払えない。成績も下がり、死ぬしかない」と遺書のようなメモがあり、背景にいじめがあったことがわかった。
いじめの発端は同級生が開設したフットサルのホームページで「あいつは嘘つき」と書かれたこと。同級生から「うそをついたら罰金1万円を払え」「リンチされるぞ」などとメールが届いていた。
学校側の調査では当初、いじめを確認できなかった。ネットでのやりとりだったほか、亡くなった男子生徒と加害側同級生が“仲よしの関係”に見えていたことも要因だった。そのころ、同社で冒頭の声が上がった。
サービス開始当初の契約校は少なかった。教育現場に民間業者が入ることに抵抗があったのだろう。契約が増えたのは3年目の’09 年から。東京都教育委員会が都内の公立学校を対象に、学校非公式サイトの監視を始めたことも後押しになった。
“学校裏サイト(学校非公式サイト)対策を民間業者に委託する”というニュースは教育関係者の間で話題となった。同社の営業担当でネットリテラシー講座の講師も務める鈴木慎也さんはこう話す。
「近くの私立男子高と私立女子高で“おたくが導入したならウチもやってみようかな”などと情報交換したり、保護者に配布するサービス導入の告知プリントなどを互いに参考にしたり、学校が生徒を守りたい気持ちは同じ。私学のハブにもなれる」
これまでの累計契約は私立185校と公立3635校。公立校は設置数が多く、私立も積極的といえる。私学は学校名のブランドを大切にしているイメージがあるから、これはうなずけるところだ。
〈ジャーナリスト 渋井哲也〉