生活必需品も満足に買えず、危機的な状況に陥っている買い物難民が600万人にのぼるという。その多くは高齢者。そんな彼らを救うビジネスが広がっている。車を使った“移動スーパー”はそのひとつ。
「昨年、契約台数が全国で100以上になりました」
そう話すのは、移動スーパーの最大手である株式会社『とくし丸』代表取締役の住友達也さん。スーパーに買い物に行くことができない高齢者の家を一軒一軒まわる移動販売車の事業を'12年にスタート。
小さなトラックに詰め込んだ商品は、生鮮食品から生活雑貨まで約1200点以上。町の御用聞きとして高齢者と親密な関係を築き上げ、創業わずか4年で全国にサービスを展開した。 住友さんがこの事業を始めたきっかけは、徳島の中山間地域で暮らす高齢者が買い物難民と化していたことだった。
「たまたまスーパーまで乗せていった近所のおばあちゃんの買い方が、とても異常なことに気づきました。“今度、いつ買えるかわからないから”と、1度に驚くほどの食品や日用品を買い込んでいました」
買い物難民の切実な姿を見た住友さんは同時にビジネスチャンスととらえた。
「ひと口に買い物難民といっても、高齢者によって度合いはさまざま。それほど困っていない人のところに行っても、売れないうえに喜んでもらえず、販売員のモチベーションも下がります。スタート当初は、本当にサービスを必要とする人を発見できませんでした。そこで、対象エリアを自分たちの足で歩いて調査し、とくし丸を喜んで迎えてくれる顧客を探すためのノウハウを積み重ねました」
ニーズがあるのはわかった。だが、ビジネスとして成立させるには不十分だった。そんな中、生まれたのが“プラス10円ルール”。1つの商品につき、価格を10円ずつプラスするアイデアで、顧客にも少し負担してもらうというもの。
これが功を奏して、業績を軌道に乗せたとくし丸は、徳島県内だけでなく他県にも瞬く間に進出。販売額が年15億円になるほどの大きなビジネスとなった。
「“ありがとう”の言葉を聞くたびに、価値のあるビジネスだと実感しています。今年は販売車数300台を目指していきたいです」
'08年に発表した著書『買い物難民─もうひとつの高齢者問題』(大月書店刊)で警鐘を鳴らした帯広畜産大学の杉田聡教授は、こうした取り組みについて、こう語る。
「とくし丸のノウハウは、地方の小さな企業にも広がっていますが、高齢者の売り上げだけではビジネスとして成り立たないのが現実。自分で買い物に行ける方たちも高齢者を助けると思って、少し割高でも5回に1回は移動スーパーを利用する習慣を身につけてほしい。それが自分たちの未来にもつながるのですから」