3月29日、安全保障関連法(以下、安保法)が施行される。自衛隊の任務は「専守防衛」から地球のどこでも「交戦」することが可能になった。
佐賀県唐津市在住の古里昭彦さん(61)には海上自衛隊に入隊して約10年になる長男がいる。息子が自衛官ということで古里さんは『佐賀県自衛隊父兄会』に所属し、現在は副会長の立場だ。
父兄会とは自衛隊員の家族らで作る自衛隊の協力組織。その父兄会の会合で昨年から古里さんは副会長として「憲法を解釈で180度変えることはあってはなりません。集団的自衛権の行使は明確な違憲です」と表明してきた。
賛同する声はない。議論すら起きない。ただし、息子を心配する母親の何人かはこっそりと“私もそう思う”と告げてきた。
「専守防衛や災害救助に徹するのであれば、自衛官の殉職は批判されるべきではありません。その国境警備に必要な武器をもたせるための憲法改正だって、きちんとした改正の手続きを踏んで、国民の大多数が賛成するのであればいいと思います。でも、違憲状態での海外派遣は許されない」
古里さんは、海外派遣に頼らずとも、戦争は避けられると主張する。
「自衛隊は国境警備や国内外の災害救助に専念すべきで、海外派遣時には迷彩服ではなくレスキュー服で行くべき。
そのほうが尊敬を集める。また、政治家は選出地区の挨拶回りをやめて外遊して人脈を作るべき。それが紛争を未然に防ぎます。そして、アメリカ追従をやめることですね」
だが現実は、このどれでもない。むしろ、自衛隊の海外派遣が実現するかもしれない。尋ねてみた。
「海外に派兵されるかもしれない息子さんが心配ではないですか?」
「それは、やはり心配です。できれば行ってほしくない」
古里さんは親としての気持ちをのぞかせた。その長男は、たまに父に会っても、やはり安保法に関しては何も語らない。そもそも守秘義務があるのだろう、通常の任務についても語らない。
何も話せない息子。だからこそ「理不尽だ」と思う。本人も父母も何も語れずに、自衛隊員に海外での武器使用を可能にさせる安保法を。
「もし、海外の交戦で多くの自衛隊員が死んだとしましょう。すると、誰かが必ず言うはずです。“実は私も反対だったんだ”と。今言うべきです。父兄会を辞めて個人として自由に話すのもありですが、父母たちに自分の意見を伝えるためには、やはり内部で踏ん張って声を発することを続けたいんです」
取材・文/樫田秀樹