金持ちばかりがどんどん金持ちになる。何かズルいことをやっているに違いない。一般庶民のそんな感情を、見事に裏づけてみせた『パナマ文書』の存在。
中米パナマの法律事務所から流出した膨大な文書が世に投下された。記録されていたのは、タックスヘイブンを利用する世界の富裕層や企業の税金逃れの実態だ。
“タックスヘイブン”と呼ばれ、富裕層に重宝されている税率の低い国があちらこちらにあるという。その数、全世界の国と地域合わせて60~70。よく天国を意味する“ヘブン”(heaven)と混同されがちだが、“ヘイブン”(haven)は回避地という意味。
グローバル政治論が専門の横浜市立大の上村雄彦教授(51)が解説する。
「その場所に資産を持って行けば、税金を払わなくてもいい、または極めて税金がかからない場所。匿名性が高く簡単に会社を設立できるなどの条件を備える国・地域のことをタックスヘイブン(租税回避地)と呼びます」
イギリスの王家が、本土の資産を課税逃れのために離島へ移したのが起源だという。では『租税回避』と『節税』はどう違うのだろうか。上村教授が説明を加える。
「節税は経済活動も会社の本社も、税率の安い国へ移住する。これは合法です。しかし日本の企業が日本で経済活動を行っているにもかかわらず税金のかからない海外へ形式だけ本社の住所を移す。これが租税回避です。法律の網目をくぐり抜け、違法か違法でないかと問われれば限りなく違法に近いものです」
租税法・税務会計が専門の中央大学商学部の酒井克彦教授(53)はタックスヘイブンの問題点について2点挙げた。
「1点目は『税のダンピング』。富裕層や企業がタックスヘイブンを利用して課税を逃れる。税収が減少し、国家の財政基盤がもろくなります。2点目は、国民感情。大多数の国民はしっかりと税を納めているのに、富裕層がうまくやって納税を回避する。税にとって最大の敵である不公平感が生まれます」
私たちは“税金は不公平だ”との感覚を持ち生活しがち、と酒井教授は指摘する。
「それはとても不幸なことです。税金はとられるものではなく、自分たちで納めるもの。税金は民主主義のチケットなのです。税金が国を作る。国は自分たちが納めたお金で作るんです。これが本来あるべきイメージですが、それが破綻すると国家が瓦解します」