「火事です。火事です」
マンション2階のベランダから路上に飛び降りた少年はそう言った。全身煤まみれだった。出火元の部屋に住む交際相手の少女が携帯電話に出ないことから、部屋に取り残されているのではないかと心配している様子だったという。GW連休の4日朝のこと。事態は思わぬ展開をみせた。
東京都台東区のマンション火災で住人の都立高校3年・佐藤麻衣さん(17)が死亡した事件で、警視庁は13日、同じ高校に通う同級生の少年A(18)を殺人容疑で逮捕した。5月3日午後8時半ごろから4日午前8時35分ごろまでの間に、麻衣さんに手段・方法不明の暴行などを加え、被害者宅を出火させるなどして死亡させた疑い。交際上のトラブルがあったとみられる。麻衣さんと暮らす母、弟は所用で関西方面に出かけていて留守だった。
全国紙社会部記者の話。
「火事の110番通報をしたのは少年A。麻衣さん宅を訪ねると火と煙が出ており、施錠されていた玄関ではなくベランダから部屋に入ったと話していた。不審な点があったので問い詰めると、“彼女の首を手で絞めた。ライターで布団に火をつけた”などとあっさり犯行を認めた。しかし、供述内容はあいまいで、その後、黙秘に転じたため慎重に捜査が進められている」
手で首を絞めると、遺体には指のかたちの扼殺痕が残る。しかし……。
「遺体には扼殺痕がなかったようだ。司法解剖で死因は特定できなかったが、麻衣さんの肺には水が入っており、風呂場の浴槽には水が張ってあったので溺死させた疑いが出てきた。なぜ、当初は絞殺を自供したのかわからない」
と同記者は話す。
捜査機関が殺害方法を誤って認定するわけにはいかない。また殺害時刻に幅があるのは、3日夜に犯行におよび、翌4日朝は殺害の証拠隠滅のために再訪して放火した可能性があるから。Aは捜査をミスリードしようとしているのか。大人相手に火災の第一発見者を装う“大芝居”を打ったことだけは間違いない。
消防関係者によると、Aは飛び降りた際にケガをしたほか、煙を吸い込んで気道にヤケドを負っていたという。
「そのわりに部屋はそれほど燃えていなかった。天井のクロス張りが熱でたわんで垂れ下がっていた程度で、室内のぬいぐるみなど燃えやすいものにも損傷はなかった」
と消防関係者は証拠隠滅できていなかったことを明かす。
麻衣さんの遺体は一部がヤケドを負っていただけ。偽装工作は中途半端だった。
同じ学校に通う麻衣さんとAとの間に何があったのか。
同校の男子生徒は「お似合いのカップルだった」と話す。2人は昨年、交際をスタートさせたという。
「Aは腕っぷしが強く、運動神経がいい。バスケ部主将を務めながら麻衣さんの所属する剣道部を掛け持ちするように。中・高で剣道部の麻衣さんは女子部員ではダントツの腕前で、Aも助っ人なのに男子でいちばん強かった。2人とも交際を隠す様子はなく、よく一緒に行動していた。部活の帰りはいつもツーショットだった」(同・男子生徒)
他人に暴力をふるうタイプではないという。
別の同級生は「Aは女子生徒にモテモテだった。バレンタインデーにはチョコをたくさんもらって、でも、それを自慢するようなことはなかった」とスマートな一面を紹介した。
学校生活上、何か危険な兆候はなかったのか。
副校長は「個別取材は受けられない」の一点張り。都教委の担当者は「捜査中なのでお話しできない」と答えた。