勧誘に使用された説明資料に添えられた名刺には田辺知晃と書かれていた

 グルメイベントを食いものにした男らが今月、次々に逮捕された。

 警視庁は今月3日、自称コンサルタント業の田邉智晃容疑者(42)、会社役員の矢野千城容疑者(41)、無職の大須健弘容疑者(41)、会社役員の高木信治容疑者(33)の4人を、5日にはイベント企画会社「大東物産」社長、中井冬樹容疑者(36)を詐欺容疑で逮捕した。

 債権者集会の資料によると、被害者は全国の飲食店約500店。彼らは、おいしい投資話に出資してだまされたわけではない。自分たちの味を、1人でも多くの人に味わってもらいたく参加を決めた食のイベントに裏切られたのだ。

20万円という巧妙な金額

 今年2月中旬から下旬にかけて、東京と大阪で開催予定だった『グルメンピック』が突如、中止になった。

「大東物産」が企画したもので、同社が出店料金名目で集めた金額は約1億3600万円。同社は同年2月、東京地裁に破産を申請し、破産開始決定を受けた。

 逮捕容疑は《被疑者らは共謀のうえ、イベントの開催に必要な具体的業務を遂行する意思がないのに、実施される見込みのないイベントを立ち上げ出店料金名目で金銭をだまし取ろうと考え、'16年11月下旬ごろから'17年1月上旬の間、都内所在の企業や大阪居住の女性から現金約65万円を振込させた疑い》─。

 グルメンピック被害対策弁護団団長の荻上守生弁護士が、あくどい手口を明かす。

「50店舗限定という特別枠で出店料を40万円から20万円に値引きしますと勧誘していたのですが、ふたを開けてみたら、ほぼすべての参加者が20万円の特別枠だったんです。

 非常に巧妙なのが、20万円という金額。回収できるかどうかわからない中、弁護士を雇えば費用がかかる。1店舗1店舗が声を上げるのが難しい金額なんです。現に200店舗ぐらいの被害者があきらめている

 詐欺師の一味は、東京と沖縄の2つの事務所を拠点に全国の飲食店に電話をかけ、パンフレットを送り勧誘していた。

 被害者の会を立ち上げ、「20万円の被害じゃ警察も動いてくれない。でも誰かがやらなければならない。絶対に泣き寝入りはしない」という思いで会長を務める鈴木亮平さん(34)が振り返る。

「昨年8月の終わりに、店舗にパンフレットが郵送されてきました。大津ダニエル(大須容疑者の偽名)という名刺が入っていましたので、こちらから連絡をして話が進んでいきました」

 10月には出店料を振り込んだが、あまりにもよすぎる出店条件が気になったという。

「開催期間中(5日間)の売り上げが75万円以下だったら出店料を返金する返金保証とか、店舗を手伝うボランティアスタッフを3人つける、といった条件がありました」と鈴木さん。