「体力の衰えは誰にでも起こること。ですが、“年だから仕方がない”“生活に支障はないから”と放置すれば、将来的に健康寿命を大幅に縮めるおそれがあります」
と警鐘を鳴らすのは、整形外科専門医の吉原潔先生だ。
体力の衰えは20代から始まる?
「体力は加齢によって低下しますが、特に運動習慣がない人は体力の衰えが早く、20代のうちから筋肉や関節が衰弱するロコモティブシンドローム(以下ロコモ)に陥ることも。中年以降、つまずきやすくなった、歩くのが遅くなったなど、歩行に関する自覚症状がある場合も、ロコモが進んでいることが考えられます」(吉原先生、以下同)
ロコモが悪化して、将来的にうまく歩けなくなれば、体力が落ちてさらに歩けなくなる、という負の連鎖に陥って健康寿命を縮めてしまう。
「高齢の場合、つまずいて受け身が取れずに転倒、骨折につながり、寝たきりになるケースも。寝たきりになると1週間で15%の筋肉が減るため、体力はますます低下し、取り返しのつかない事態になりかねません」
そうなる前に、体力の衰えを感じ始める40〜50代からの対策が欠かせないという。一体、どうすればいいのか?
「体力の源は、筋肉です。筋肉は運動しなければ減っていくため、体力維持には運動が欠かせません。そこで私は短時間で楽にできる筋トレをおすすめしています。ウォーキングも効果がありますが、毎日40分以上行うことが推奨されており、実はハードルが高め。特に夏は熱中症のリスクも高まり、注意が必要です」
そこで実践したいのが、吉原先生が提唱する、30秒で体力がつく“スゴイもも上げ”だ。
「壁に寄りかかって片足のももをできるだけ高く上げ、1秒間止める動作を左右交互に繰り返し、30秒間続けるだけ。これだけでも、上半身と下半身をつなぐ大腰筋や、前もも、お尻の筋肉、腹筋などの大きな筋肉を同時に鍛えることができ、体力アップが期待できます」
なかでも大腰筋は、普段の生活では鍛えづらい筋肉。しかも日本人は世界一座っている時間が長く、大腰筋が衰えやすい環境にあるのだとか。
「大腰筋は知らず知らずのうちに衰えて、つまずきや歩く速度の低下などを引き起こすため、もも上げで早いうちから鍛えておくべきなのです」
また、壁に寄りかかることで転倒リスクがなく、体力がない人も安心してできる。さらに猫背や反り腰などを防いで正しいフォームでできるため、効率的に鍛えることが可能だとか。
「何より大切なことは、毎日続けること。30秒でも継続することで確実に体力アップにつながります。まずは2週間続けてみてください」
30秒×2週間で大腰筋は鍛えられる
そこで、スゴイもも上げを続けて、実際に効果を実感したという2人の女性に話を聞いた。1人目は、膝の痛みに悩まされ、まったく運動していなかった70歳の女性。
「2週間続けたところ、ももが1cm高く上がるようになり、椅子から立ち上がるのもスムーズに。腰回りも締まって、ダイエット効果も実感しました。
さらに144mmHgと高かった血圧が2週間で136mmHgに、1か月後には113mmHgにまで下がったのです。30秒のエクササイズで、これだけ効果が出たのでとても驚きました」
もう1人はももが上がらなかったという75歳女性。
「2週間でももが5cmも上がるようになりました。また、椅子から立ち上がる時間が14秒から10秒まで短縮され、日常の動作がスムーズに。朝起きた時の膝のこわばりもなくなりました」
2人とも70代だが、たった2週間で膝が高く上がるようになり、大腰筋を鍛えることに成功した。
「筋トレの効果は個人差が大きいですが、これまで運動をしていなかった人ほど、効果が出やすいんです。膝の痛みが消える、立ち上がりやすくなるなど、日常の動作がスムーズになることで日々の運動量が増え、血圧の低下、体脂肪の減少など生活習慣病予防に役立つケースも。
身体を動かすことで気持ちも明るくなり、外出する機会も増えて、より体力アップにつながります。もも上げをその第一歩にしてほしいですね」
「もも上げ」のやり方
(1)頭、肩、腰、手のひらを壁につけ、足は壁から10〜15cmくらい前に出して立つ。
(2)片側のももをできるだけ高く上げ、1秒間止める。ももを上げるとき、つま先は下向きに伸ばす。同じ動作を左右交互に30秒間繰り返す。
《POINT》猫背や反り腰になると、大腰筋をうまく刺激できないため、壁にしっかり寄りかかること。ももをなるべく高く上げ、きちんと止めることでより効果的な運動になる。大切なのは毎日続けること!
教えてくれた人……吉原 潔先生●整形外科専門医。フィットネストレーナー。医学博士でありながら、運動療法や筋肉トレーニングにも精通し、多角的な診療を実現。著書に『ドクターズスクワット 医者が考案した「30秒で運動不足を解消する方法」』(アスコム)など。
取材・文/伊藤淳子