「体温が少し下がるだけでも、生活習慣病をはじめとした病気のリスクを引き上げる可能性があります」と話すのは内科医の川嶋朗先生。免疫力が落ちるシニア世代こそ「冷えは万病のモト」と肝に銘じ、ポカポカ生活を心がけるべきという。現在67歳、川嶋先生も健康のために実践する温活をさっそく試してみて。
日本人の体温はこの50年で低下の一途をたどっている。東京大学の研究では、日本人の平均体温は1957年の36.89度から0.7〜0.8度も下がり、36.1度になったと報告されている。こうした日本人の“低体温化”に警鐘を鳴らすのが、内科医の川嶋朗先生だ。
体温が下がると健康寿命が縮む?
「体温は、0.5度下がるだけで酵素や免疫の働きが弱まり、身体全体の機能が低下します。これにより、がんや生活習慣病をはじめとしたさまざまな病気のリスクが上がってしまいます。
他にも、血液がドロドロになって血流が悪化したり、酸素や栄養素、免疫細胞が身体の隅々までうまく届かず、老廃物の排出も滞ります。こうした血流の障害は身体を硬くして、こりや痛みの原因に。
さらに、脳の血流が低下すると、セロトニンなどの脳内伝達物質が作られにくくなり、メンタルにも悪影響を及ぼします」(川嶋先生、以下同)
では、どうして日本人はこれほど体温が低下してしまったのか。
「体温の低下は、文明の発達と深く関係しています。冷蔵庫で冷やした飲み物やエアコンは身体の熱を奪いますし、交通機関の発達による運動不足も体温を下げる原因になっています。筋肉は身体の中でたくさんの熱を生み出しているため、運動不足で筋肉が減ると体温も下がりやすくなるのです」
加えて、現代のストレス社会も低体温化の原因になっていると川嶋先生。
「ストレスを感じると交感神経が優位になって血管が収縮し、血流が悪化して体温低下を招きます。とくに現代人は若者を中心にストレス耐性が下がってストレスを感じやすくなっており、低体温になりやすい体質の人が増えていると考えられます。
中高年世代は若者よりストレス耐性もあり、文明に頼りすぎない生活を送っている人も多いのでその点はあまり問題ありませんが、60代以降は加齢によって筋肉が減少しやすいため、油断は禁物です」
女性の場合は、更年期障害によっても体温の低下を招くことがわかっている。
「更年期で女性ホルモンの分泌が乱れると、自律神経が乱れて交感神経優位になりがち。特に頭がのぼせて、身体が冷える冷えのぼせは、首から下が交感神経優位で血流が悪化することで冷えてしまうのです」
日常のちょっとした工夫が温活に
低体温を放置すれば健康寿命を縮めてしまうことにもなりかねない。そこで有効なのが、川嶋先生も実践している温活だ。
「基本は、身体を冷やさない生活をすること。まず冷蔵庫から出してすぐの食べ物、飲み物はとらないように心がけてください。常温の食べ物や飲み物をとっても冷えによる不調が続くようであれば、体温より高い温度に温めて食べること。
私は身体を温めるために毎朝起床後、体温より少し温かい白湯(さゆ)を飲んでいます。胃腸が温まって活発になり、血流が上がって身体全体が温まるんです」
そして、身体を温めてくれる働きを持つ根菜類や発酵食品、しょうが、肉や魚などのタンパク質食材を積極的にとる。
「和食は身体を温める食材を多く使うので、温活におすすめ。さらに噛むという動作も熱を生み出すので、ひと口30回を目安にしっかり噛んで食べることを心がけてみてください」
こうした食習慣に加え、体温アップには身体の熱をつくり出す筋肉を増やすことも欠かせない。
「運動は温活に必須ですが、苦手で継続できないという人も。そこでおすすめしたいのが、日常生活を少しきつくすること。例えば、歩くときは大股で速く、洗濯物を干すときは1枚ごとにしゃがむ、立ったまま料理や洗い物をしながら踵(かかと)の上げ下げをする、など。
いつもの行動を少しきつくするだけで筋肉量の維持につながります。階段を見たら無料のジムだと思って積極的に上ってください。散歩はアルツハイマー病のリスクも減少させるので、やって損はありません」
温活で体温が0.5度上がれば、全身の血流がアップしてエネルギーの産生や脂肪の分解、傷ついた遺伝子の修復などさまざまな役割を担う酵素が活性化。身体全体の機能が改善され、健康維持につながる。その一方で注意したいのが、間違った温活だ。
「40度以上の熱いお風呂や高温のサウナで身体を温めようとするのはNG。急激に身体を温めると汗をかいて、かえって体温が奪われてしまいます。また激しい運動も体内に活性酸素を増やし、体温を低下させます。活性酸素は老化も早めてしまうので要注意」
さらに更年期障害で起こりやすい“冷えのぼせ”の対処法も注意が必要だ。
「頭がのぼせて身体が冷える冷えのぼせは、首から下が交感神経優位になって血流が悪化することで起こります。ここで頭を冷やしてしまうと、かえって逆効果に。首から下を温め、副交感神経が優位になるようリラックス状態をつくるようにしてください」
また、意外な落とし穴に鎮痛薬がある。
「中高年は身体の痛みに悩む人も多いですが、鎮痛薬を頻繁に服用すると冷えが悪化して血流が低下し、さらに痛みが生じるという悪循環に陥ってしまう人も多いです。温活で体温を上げれば血流が改善され、痛みの軽減にもつながります」
身体を温める食材
未精製の食材(黒糖・胚芽米など)
精製された炭水化物(パン、パスタ)や白砂糖などは食べたあとに血糖値を上げやすく、その上がった血糖値を下げようとインスリンの分泌が増加。この血糖値が低下するときに、体温も一緒に下がってしまうため、未精製の食材をとるように心がけよう。
冬が旬/寒い地域でとれるもの(にんじん・れんこん・ごぼう・ほうれん草など)
根菜に含まれるビタミンEには、毛細血管を広げて血行を促進させる働きが。末梢血管の血行を促進することで、冷え性や肩こりの緩和も期待。
発酵食品(みそ・納豆など)
酵素が多く含まれており、身体の代謝を促すため温活効果が期待できる。
肉や魚などのタンパク質食材
タンパク質は筋肉をつくるための栄養素。摂取することで筋肉量がUP、すると熱量が増え、冷え改善にも効果的。
温活NG行為
1:40度以上の熱いお風呂や高温のサウナで身体を温めようとするのはNG
2:痛みを感じることが多い中高年だが、鎮痛薬を頻繁に服用すると冷えが悪化するので注意
教えてくれた人……川嶋 朗先生●神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授。統合医療SDMクリニック院長。低体温を防いで健康寿命を延ばす温活を提唱している。著書には『60歳から体温を「0.5度」アップする健康法』(飛鳥新社)などがある。
取材・文/井上真規子