“しとなった”ふたりにはまったりとした時間が流れるが、若年層の夫婦よりも“最期”が近くに見えている。由美子さんも、「熟年婚=いかに最期を考えるか」だと当時を振り返る。

日常会話で“死”の話

「婚姻関係でなくては有事のときに病院での面会に立ち会えないのが日本です。結婚するときは、最期までいっしょにいるという覚悟がいりますね。私たちはしっかりした話し合いをしたのではなく、ふだんの会話の中でそういう話がありました。

 例えば、スケジュールの都合以外で仕事を断らない人でしたが、お葬式の司会だけは、“自分は葬式顔ではないから”と断っていたんです。“あなたは笑顔のない場所が嫌いだから、もしもの日が来たら、お葬式ではなくて引退式をしてあげる。そのかわり生涯現役で仕事をしたご褒美だから、身体を大切にね!”と話しかけたりとか」

 どうやって死んでいくか。そんな議題が日常会話の中でサラリと語られるのだ。

「どちらかが寝たきりになるかもしれませんし、身体に何かあるかもしれない、介護が必要になるかもしれない、死に水を取ることになるかもしれない……。そういったリスクは若い人よりも高いので、結婚するためにはそれなりの“覚悟”が必要になりますよね。

 若い人同士だったら“一生いっしょにいようね”というところが、“最期までいっしょにいてね”“看取ってね”という話にもなります」

 籍を入れてからは刻一刻と別離へのカウントダウンが始まるということだが、そんななかでも「つまらない日なんて、1日もなかった」と由美子さんは胸を張る。

「いっしょに過ごせる時間が少ないからこそ、その日々を楽しく過ごしたいですよね。健康を保ってもらえるように食事に気を遣ったり、お互いに“この世でスーツがいちばん似合うよね”“由美子の作った料理が世界一だよ”って口に出したり。そんな幸せな日々を最期までいっしょに過ごせた私は、とっても幸せ者だと思います」

 “おしとね婚”とは、覚悟のうえに成り立つ最高の幸せなのかもしれない──。