やはり、認知症の妻、大山のぶ代のことが心配だったのだろう。小林氏は砂川さんが倒れた後は大山の世話を一手に引き受けており、彼は思いを託したのだ。
「'15年に砂川さんは大山さんが認知症だということを公表しました。昨今、認知症や老老介護が社会問題になっていたこともあり砂川さんの介護生活に注目が集まりましたね」(前出・スポーツ紙記者)
認知症を公表した後に出版した著書『娘になった妻、のぶ代へ』(双葉社) には、介護と闘病の生々しい現実が詳しく記されている。今年5月に文庫本として再出版された際には、サブタイトルにあるように『大山のぶ代「認知症」介護日記』がつけ足された。
砂川さんの死が突然だったため、今後についてはっきりとした指示を残す余裕はなかった。だから、この日記に記されていることこそが、妻にあてたメッセージだと思えてならない。
飾らない言葉で妻への深い愛情
《昔から、日々の出来事や考えを取り留めもなくノートに書き綴っている。日記というほど毎日つけているわけでもなく、日付を入れているわけでもない》
形式ばった文章ではないことが、むしろ真情を伝えることにつながっている。
《今のお前は新婚に近い状態に戻っている。お前はそれでいいのだがオレはそのまま付き合っていたんじゃ、たまらんよ》
《やっぱりペコ(大山のぶ代)が好き》
《一番愛し、一番多く一緒にいた奴は、お前だ オレが死ぬ時、「お前と人生を共有出来て良かった」といって死にたいから、これからもお前はオレにとって良い奴でいてくれ》
ストレートな気持ちが、そのまま文章になっている。飾らない言葉なのに、妻に対する深い愛情が痛いほどにじみ出ているのだ。
本をプロデュースした双葉社編集局部長の渡辺拓滋氏は、砂川さんの伝えたかったことに気づいていた。
「残したものといえるのは特にないと思いますが、毎日つけていたメモというかノートに書いた走り書きなんですけど、ラブレターみたいな感覚で書いていたんだと思います。本の最後に書かれているのは今回、オリジナルで書かれたもので彼女に対する思いがよく伝わりますよね」