遊ぶようにして生きる力を養う

 同じく塾生で、中学3年生の吉井伶衣さんは「自分が苦手な科目を楽しく学ぶには?」という探究テーマに基づいて作った教材キットを見せてくれた。伶衣さんは以前、岩田さんにすすめられて、高校生による“研究発表コンテスト”に中学生ながら出場。大勢の聴衆の前でのプレゼンの末、高い評価を得た。

伶衣さんが6歳の弟のために作った、世界の国々と算数の計算を学ぶキット。「スケスケイサン」(上)は毎回、違う計算式が現れる。「ウゴクニ」(下)はしかけ絵本のように、電車が動いたり、マトリョーシカが出てくるのが楽しい。
伶衣さんが6歳の弟のために作った、世界の国々と算数の計算を学ぶキット。「スケスケイサン」(上)は毎回、違う計算式が現れる。「ウゴクニ」(下)はしかけ絵本のように、電車が動いたり、マトリョーシカが出てくるのが楽しい。
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「みんなの前で話すことはこの塾に通ううちに慣れました。授業では毎回、意見交換をするし、研究成果の発表もいつもやっていることなので」(吉井さん)

 探究ラボにはそのときのテーマごとに専門家がゲストとして訪れ、探究するチームも異なる学年同士が交ざる。大人でさえ人前で話すのが苦手な人は少なくないが、あらゆる年代の人と頻繁に交わることも大舞台でも臆さないコミュニケーション能力を高めている。

「いろんな働き方をしている大人たちに会えるのはおもしろいし刺激を受けます。塾なんだけど、勉強というより遊んでる感じかも(笑)。私、ここに通い始めて、人生変わったと思う」と話す吉井さんの視野は遠くにまで広がり、いずれ海外留学をしたいとも考えている。「将来やりたいことがたくさんありすぎる」という阿部くんは現在、自ら中学受験への挑戦を決め、奮闘中だ。

 学びに対するふたりの前向きな姿勢に触れていると、ここが優秀な生徒だけが集まる塾であるかのようにも感じるが、同時に不登校児や学校になじめない子も自然体のままに通い、自分の個性を伸ばしながら社会で生き抜く力を養っている。

「今は、終身雇用がなくなったり、これまで常識だと思われていたレールがどんどん崩れている時代。言われたことをそのままこなすことよりも、自分の人生を自分で描いていく力の必要性が高まっていると思います」(岩田さん)

 2020年度からは学習指導要綱が大きく変わり、大学入試からセンター試験がなくなって記述式の問題が増えるなど、より主体性が重視されるようになる。そうなれば、自ら問題を発見して考える力や、創造力に期待する社会のムードも自然と高まることだろう。この教育大変革の足音にいち早く気づいた親たちが今、これまで考えられなかった新型学習塾のユニークな授業に注目し、わが子の土台づくりを着々と始めている。