営業職も対象に! 悪用必至な「定額¥働かせ放題」のワナ
今ある「裁量労働制」という働き方の対象を大幅に拡大する、それがもうひとつの『残業代ゼロ法案』。またの名を『定額¥働かせ放題』という。
竹信さんによれば、
「高プロと違って、労働時間規制の対象にはなるものの、例えば残業を2時間といった形で会社と約束し、その範囲内で、自分で判断して働いていいですよ、という制度。どれだけ長く働いても、あるいは短く働いても、あらかじめ決められた給料が支払われます」
給料は変わらないのに、自分の判断で仕事から早く帰れるなんて、おいしい話に思えてしまうが、
「仕事量をすごく増やされてしまうと、同じ賃金でどんどん働かなければならない。長時間労働が社会問題化するなかでは、自分の判断で、仕事を早く切り上げられるという人のほうがまれでしょう」(竹信さん)
その制度が規制緩和され、対象が大きく広げられてしまう。
「現状の裁量労働制はシステムエンジニア、デザイナーなど職種によって対象となるものと、事業活動の中枢にある労働者を対象とする企画業務型の裁量労働制があります。今回の法案では、企画業務型の対象が一部の管理職、いわゆる営業職にも広げられます」
と佐々木弁護士。ここでいう管理職は、チームや部署でプランを立て、それを実行してチェックし是正する、いわば総合管理をするような立場。世の管理職はだいたいあてはまりそうだ。
そして営業職は、ものを直接売るのではなく、企業などが相手の法人営業が対象。これも、ほとんどの営業職が入ってしまう。
「しかも、これには収入の条件がありません。年収150万円だろうと200万円だろうと該当するのが怖いところ」(佐々木弁護士)
加えて、ブラック企業に悪用されるおそれもあるというから、たちが悪い。竹信さんが指摘する。
「一定時間は残業したとみなして給料を計算するわけですが、このとき、基本給を安く設定すれば、残業代を入れて、ようやく普通の賃金ぐらいになる。過労死裁判で、初任給19万円のうち、80時間もの残業代を組み込んであったという事例もあったほど。対象が広がればブラック企業はやりやすくなるでしょうね」
そのため佐々木弁護士らブラック企業対策弁護団では、裁量労働制の対象拡大を、「ブラック企業に栄養を与える制度」として以前から批判してきた。
「裁量労働制にあてはまらないのに、会社が拡大解釈して社員に強制するようなケースもあります。本当は対象ではないのに、管理職や営業職なのだからと言って、裁量労働制を適用する。あるいは、実際の残業時間に見合わないような給料しか払わないとか」
現行の裁量労働制でさえ同様の問題が起きて、裁判になっている。
「裁量労働制のもとに長時間労働をさせられて、うつ病になったから辞めたいと会社に言ったら、辞めさせないばかりか、反対に2000万円の損害賠償を請求してきたという有名な『AdD事件』があります。弁護士がよく話を聞いてみると、裁量労働にあてはまらないケースだったため、会社に1000万円の残業代を請求したんです」
判決では、会社の請求は棄却され、残業代が認められた。とはいえ、職場で理不尽な思いをした誰もが裁判を起こせるわけではない。危ない法律は、やはり作らせないに限るのだ。