感情と出来事を切り離して誰かに話す
南住職は、仕事柄、人から悩み事の相談を受けることも多い。
「私のもとに相談に来る人には2つのタイプがあります。“今の状況がこじれて苦しい人”と“今いるところからどこかへいきたい人”です。両者で共通しているのは、“自分の話”がまず出てこないこと。本人は自分の問題を話していると思っていますが、ほとんどが“自分をめぐる人間関係”についての話。そして、だからつらい、苦しいと訴える。
そのつらい感情を取り去りたいと。でも、それは“匂い”と一緒。“匂い”を取り去るのではなく、“匂い”の元を取らないと問題は解決しない。だから、私は相談者の身に起きている出来事が何なのかを知るために時間をかけて聞き出すのです」
さらに「話すという行為がとても大切」と言う。
「人は感情で物事を判断する癖がついているから、感情と出来事を切り離して話す訓練も必要ですね。自分が抱えている問題を話せる“淡い関係”の人をつくるといい。気心は許せるけど、日常的に会うわけではない。何となくウマが合って適度に距離感があり信頼できる関係の人。かかりつけの医者のように、かかりつけの相談者ですね。私たち僧侶も、そんな“淡い関係”の相談者になりたいものですね」
最近、出家したいと住職に相談する定年間近のサラリーマンも多いという。
「たいていは、そこが嫌だからどこかに移りたいんです。それは出家ではなく家出。出家して何がしたいのか、はっきりしてなきゃいけない。就職と一緒なんですよ。何とかなると思ってるけれど、何ともならない。世間でダメだったら、出家してもダメ。とても耐えられないでしょうね。居場所とは、あるものではなくつくるものなんです。手間と時間をかけてつくる覚悟が必要ですね」
南住職は、坐禅の効能についても話してくれた。
「坐禅は、感情をクールダウンするための手法として使える。私にとって、坐禅は最後のよりどころなんです。これさえやってたら大丈夫と思えるもの。
でも、坐禅じゃなくてもいい。掃除とか草むしり、雪かきなど、手が勝手に動いて頭が別のことを考えられるパターン化された行動も、クールダウンには役立ちます。怒りの感情にとらわれたときなど、ぜひやってもらいたいですね」
著者の素顔
永平寺で3年の修行期間を終えると、南さんはそのまま寺に残り、修行僧の指導や割り振られた職務を行う“役寮”という立場に。当時は、その厳格さから“ダース・ベイダー”のニックネームがついたのだが、今では、奥さんには頭が上がらないんだとか。奥様とは、修行時代に知り合い、8年後に結婚。たまたま、彼女の実家が青森県・恐山の寺だったために、そこの住職代理となった。
<著者プロフィール>
みなみ・じきさい ◎1958年、長野県生まれ。早稲田大学卒業後、大手百貨店勤務を経て、曹洞宗で出家得度。曹洞宗・永平寺で約20年の修行生活を送る。現在、福井県霊泉寺住職、青森県恐山菩提寺の住職代理を務め、福井、青森、東京を中心に全国で講演も。『老師と少年』『恐山 死者のいる場所』『善の根拠』『「悟り」は開けない』など著書多数
取材・文/小泉カツミ