本に親しむ機会を演出する公営書店「八戸ブックセンター」
青森県八戸市に2016年12月にオープンした『八戸ブックセンター』(以下、センター)は、八戸市の直営書店として全国的に注目されている。基本的に民間事業である書店を行政が運営するケースは、これまでなかったからだ。
センターは小林眞市長が公約として掲げた“本のまち八戸”への取り組みのひとつ。「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」の3つが基本方針だ。
場所は、JR八戸線・本八戸駅から徒歩10分ほどの町なかにある。センターの正面には、観光資源や地域文化の拠点となる『八戸ポータルミュージアムはっち』が。街の憩いの場となるもうひとつの施設も2018年には完成予定で、3者がつながることで中心市街地の活性化が期待される。
本に模した“八”のマークを目印に中に入る。空間や棚のディレクションは、東京・下北沢の書店『B&B』の代表も務めるブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんによるもの。本をゆったりと選び過ごせるデザインになっている。
棚に並ぶ新刊は約8000冊。基本となる4つの棚には、人文や芸術などの本が並ぶ。一般の書店ではあまり並ぶことのない堅めの本と、入門的な本をバランスよく置いている。ほかの書店で買える雑誌やコミックは基本的に置かない。
別の棚には、八戸の歴史や文学に関する本が並び、八戸の人が選ぶ「ひと棚」コーナーも。地元出身の作家・三浦哲郎の文机の前で本を読むこともできる。刺しゅう装丁のオリジナルカバーをつけた代表作『野』(講談社文芸文庫)は100冊以上売れているという。
「本の並べ方が新鮮でおもしろいという反応が多く、来館者も売り上げも増えています」と、所長の音喜多信嗣さんは言う。
中央のカウンターでは本の販売のほか、コーヒーやビールなどの飲み物も注文できる。ここで働くのは、八戸市の書店組合の人たちだ。館内にはイスや、ハンモック席や、ひとりの世界に浸れる「本の塔」などがあり、自由に本を読むことができる。また、読書会ルームでは著者のトークイベントや、読書会なども。
「月末の金曜には本について語る交流会『ブック・ドリンクス』も開催しています」(音喜多さん)
読書会を開きたいという地元の団体にも貸し出している。もうひとつの貸し出しエリアが、“カンヅメブース”だ。作家の書斎のようなスペースで、市民作家として登録すれば自由に使うことができる。現在の登録者は120人ほど。ここにこもって、原稿を書くプロのライターもいるそうだ。
ギャラリーも併設されており、2か月に1度のペースで展示を行う。取材時には、青森出身の寺山修司の展示が開催中だった。
「この場所では売り上げ以上に、本に触れてもらう機会を増やすことを重視しています。今後は、地元の書店や図書館の協力を得ながら、ここでしかできない試みをやっていきたいです」と音喜多さんは語る。
2017年9月24日には『はっちの一箱古本市』が開催。東北各地や東京から約20箱の素人店主さんが参加し、古本を売りながらの交流を楽しむ様子も。そのゲストとして参加した本や本屋を楽しむ活動を行う『いか文庫』のトークイベントも、センターで開かれていた。
既存の施設と連携し、本に関する企画を行っていくことで、市民が本に親しむ場所になっていくこと。それが、市営の書店である八戸ブックセンターに求められていることなのだ。
◎青森県八戸市大字六日町16-2 Garden Terrace1F 営業時間/11:00~20:00 定休日/火(祝日の場合はその翌日休)