「介護の大変さをわかってくれる、2つ上の姉がいたんです。一緒に子どもを可愛がってくれて、妻の入院中に世話を手伝ってくれたりしました。

 妻が入院している間は、病院からの帰り道に毎日のように電話して、愚痴を聞いてもらいました。子どもには聞かせられないような話を姉に聞いてもらうことで、ガス抜きができていた気がします」

 小室は2年前、自らもC型肝炎になっていることを知った。闘病しながら介護を続けるうちに、弱気になってしまったのだろうか。

僕が小室さんに共感しすぎて美化してしまっているのかもしれません。でも行動はともかく、僕は小室さんの気持ちがわかります。

 僕の場合は夫婦だった思い出や子どもたちのため、という思いを一生懸命、集めて“自分がかつて愛した奥さんではない状態の妻”と向き合っていました。でも、そうするほかない状況だったんです

 KEIKOは、小学4年生の漢字ドリルが楽しいようだ、と小室は話した。大人の女性としてのコミュニケーションはできない。3年ほど前から疲れ果ててしまっていたという小室の告白に、岩本は共感したという。

今まで妻だった人が僕の奥さんではなくなるし、子どものお母さんでもなくなってしまう。何ものでもない存在になってしまうんです。

 それほど関係性が変わってしまうので、当たり前の“夫婦”でいることはとても難しいんですよ

 岩本は、姉の支えや子どもの存在があったから、平静でいられた。

 前出の露木氏はこう語る。

「介護をしていると、相手に優しくなれない自分を追い詰めてしまうことがあります。万が一、介護しているパートナーとうまくいかなくても、介護は誰かが継続します。だから、思い詰めすぎないでほしいものですね」

 小室の行為が誤解を招いたことは確かだが、彼は想像もできないほどの孤独と闘っていたのかもしれない。