この言葉がきっかけとなり、2016年11月、小崎さんのヘルプマーク普及の活動が始まった。小崎さんの活動の第1歩は、名古屋市議会議員への働きかけからだったという。議会で河村たかし市長に質問してもらい、「こうしたものがあるのは非常に大事」とのコメントを引き出した。

名城公園での署名活動。さまざまな人の署名が、名古屋市を動かし、ヘルプマーク導入への強力な後押しとなった
名城公園での署名活動。さまざまな人の署名が、名古屋市を動かし、ヘルプマーク導入への強力な後押しとなった
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 2017年4月には、導入目指しての署名活動を開始。6月には、長尾さんも協力のもと名古屋城下の名城公園で開かれたイベントに便乗、ブースを設けて署名を呼びかけたところ、およそ800名の署名が集まった。

 さらには知人4名がなんと1万131名もの署名を集めてくれた。受け取った河村市長からはこんな声が出た。

「こんなに持ってきたんか! すごいなあ!」

 こうした仲間たちの活躍、名古屋市役所の人々の協力もあって、同年10月には名古屋市がカードタイプのヘルプマークの導入を決定。小崎さんの自宅がある三重県も、この2月からカードタイプでの導入を実現している。少しずつでも着実に導入を決意する自治体が増えてくる中、小崎さんの役割も変化してきている。

「東京・大阪では、“ヘルプマークをつけていても優先席を譲ってもらえない”という声が多いんです。これからは、健康な人に知ってもらうことにも注力していきたいと思っています」

1日でも多く笑える日を

 この間の2016年には、中高一貫校の教諭をしている紘成さんと結婚。ともに雪の中に立ち、署名活動にも参加してくれている。長尾さんが言う。

当初は交際を断った紘成さんと2016年に結婚。「今日1日が大切という麻莉絵ちゃんが一緒にいると笑顔なのがうれしかった」という言葉が心を動かした。紘成さんは“1日1回、笑わせる”と誓い、実行しているという
当初は交際を断った紘成さんと2016年に結婚。「今日1日が大切という麻莉絵ちゃんが一緒にいると笑顔なのがうれしかった」という言葉が心を動かした。紘成さんは“1日1回、笑わせる”と誓い、実行しているという

「余命宣告を受けた当時より、今のほうがずっと元気です。紘成さんの存在がすごく大きいんだと思います」

 とはいえ、余命宣告を受けた身であることには変わりはない。病気が切迫すれば、躊躇なく骨髄移植にトライするつもりだ。だがそれまでは、1日1日を大切に、全力で生きていきたい。

「寿命って、長さよりも日々をどう過ごしたかのほうが大切なんだと思います。だから苦しかったり悲しかったりする日をできるだけ笑えるようにして、1日でも多く笑える日を作っていきたい─」

 病気をしてから幸せを感じることが多くなったと小崎さん。MDSは健康というかけがえのないものを奪ったが、病気ゆえに得たものもあった。

 その恵みに心から感謝しつつ、今日を懸命に、全力で生きている─。

<取材・文/千羽ひとみ 撮影/吉岡竜紀>